014:冷房故障 何でこんな日に故障なんてするかなぁ。水谷は机に突っ伏しながら、そんなことをぼんやりと考えた。だらだらと流れる汗で、既にシャツはびっしょりと濡れている。それが気持ち悪さに拍車をかけていた。 お天気お姉さん曰く、今日は真夏日になるらしい。そんな日に冷房が故障したという放送が流れたのはついさっきのことだ。基本的に自然風で乗り切る学校ではあるが、こんな風に温度が28度を超え、風もない日に限っては冷房を入れてくれる。暑さで朦朧として学業に支障が出るというのは長年の経験で分かっているのだろう。だから今日も冷房を入れようとしたのに、電源を入れてもうんともすんとも言わなかったので、故障が発覚したのだ。 昨日、夜中までマンガを読んでいたことがいけなかったのかもしれない。体中が熱くて気持ちが悪い。 うーとかあーとか唸っていると、頭上から声が降ってきた。 「文貴?どした?」 すとんと胸に染み入るようなそれは、の声だった。つんつん、と肩をつつかれて、のろのろと顔を上げる。 「んー…暑くてちょっと調子悪いかもー…」 「え、大丈夫かよ。保健室行く?」 「や、ヘーキ」 心配させないようにへらりと笑う。それでもはまるで自分が辛いかのように顔を歪めた。 「…あ、じゃあ、これで少しは元気になる?」 そう言っては、くるっと体の向きを変えて自分の席を漁り出した。何をするんだろうと眺めていると、赤い透明の下敷きを持って、にやりと笑う。 その下敷き俺も持ってんなー、なんて思っていたら、何だか涼しい。赤い下敷きは、ぺこぺこと変な音をさせながらも水谷に風を運んでくれた。 「生温い?余計具合悪くなっかな」 「や…きもちー。たすかる、ありがと」 風も気持ちいいのだが、調子が悪い今は何よりの気遣いが嬉しい。今度は心から笑みを浮かべてそう言うと、は安心したようにほうっと息を吐いた。 「ならよかった」 「は暑くねーの?」 「暑いけど気合で乗り切ってるよ」 「それって俺が気合ないみたいじゃん…」 ちぇっと水谷が唇を尖らせると、はははっと笑う。それだけで元気になれるような気がするのだから不思議だ。がこんな風に構ってくれるのであれば、冷房なんてなくてもいいかもしれないとさえ思う。 ひとり幸せ心地でいると、丁度通りかかった阿部がうんざりとした顔を浮かべた。 「、ヘボピなんか甘やかさなくていーぜ」 「へ?」 「阿部うるさいー」
( 2009/09/09 )
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