032 : 制服のチラリズム 「ひゃはっ、見たかよ今の!」「見てねぇけど、見えたのか?何色?」 「水色の無地」 「へー、水色だってよ、」 振り向いてを見る。は億劫そうに文庫本から顔を上げて、仰々しく溜息を吐いた。色々とあからさまな態度からは、今の御幸と倉持と無関係を貫きたいという気持ちがバレバレだ。 「…なんで俺に振んの」 そう言いながらもきちんと会話を成そうとして、はパタンと文庫を閉じる。外への興味をなくした御幸はの席の前の席に座って、ニッと笑った。 「気になってんじゃねぇかと思って」 「気にならないよ」 は思わずむっとする。御幸の言い方では、まるで自分がむっつりみたいに聞こえたのだ。 確かに御幸と倉持は、堂々とそんな発言をするくらいなのだからむっつりではないのだろう。そもそも強風で女子生徒のスカートが捲れるのを楽しみに窓から外を覗いていたくらいなのだから。だからと言ってそのふたりに混ざらなかった自分に、そういう風に話を振られたのでは堪らない。 「そういう御幸こそ、見れなかったんだろ。残念でした」 お返し、と言わんばかりに拗ねたままが言うと、御幸はそうだな、と笑った。 「でもな、」 「うん?」 「俺、こっちのが気になるんだよな」 こっち?とが首を傾げている隙に、御幸の腕が伸びてきて、ぐっと襟付近を掴まれる。そのせいで襟元が大きく開いて、風が吹き込みスースーした。 「ちょっ、何?」 「気付いてねぇんだろうけど、お前、さっきから第二ボタンまで開けっ放しだぜ」 思いがけない言葉に、咄嗟に視線を胸元に移す。そこには御幸の手と、隙間から自分の胸板が見えて、は真っ青になった。 「何だよ御幸、バラすんじゃねぇよ」 「はっはっはっ、悪ィな。あまりにも扇情的で、つい」 「ついじゃないだろバカ!もっと早く言えよ!」 御幸の腕を退けて、ふたりに怒鳴りながらは第二ボタンを留める。 「いーじゃん別に。男同士なんだからよ」 「じゃあそんな目で見んな」 「へぇ〜、そんな目ってどんな目?」 「そういう目だよ!」 眼鏡の奥から突き刺さる、にやにやとしたその視線が耐え難い。倉持は倉持で隠そうともせず笑っている。 「仕方ねぇなぁ、それは。が色っぽいのが悪い」 「いろ…っ!?」 まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなくて、は耳まで真っ赤になる。そういう反応が楽しくて御幸と倉持は更に悪乗りすることになるのだが、悲しいことに本人はまったく気付かないのだった。
( 2009/06/21 )
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