036 : 勉強モード

「――だからこうなるんだけど、分かったか?」
「うー…あと少しで理解できそうなんだけど……ごめん、もう1回教えてくれる?」
「いいよ」


 申し訳なさそうに人差し指を立てて(多分もう1回の1なんだろうけど)頼み込むに、瀬多は迷惑がるわけでもなく、もう1度最初から説明し始めた。そんなふたりが何だか俺には気に入らない。瀬多はに優しいし、は瀬多にべったりだし。何なんですかね。ふたりとも、俺のことなんて眼中にないんじゃねーの?
 そもそも一緒に勉強しようと言い出したのは俺だった。一人でやろうとしてもどうしても違うことに意識がいっちまって捗らないし分からないから、俺と同じようなを誘って、ずば抜けて優秀な瀬多の家に押し掛けた。もちろん、部活もバイトもないことを知っていて、だ。
 それから真面目に勉強している。でも、さっきから言っているように何だか俺だけ除け者のような気がしないでもない。がよく質問するかもしれねぇけど瀬多はに構いっきりで、俺はそのに対する瀬多の説明を聞いて、今日の範囲をひとりでせかせかと終わらせちまった。


「なー、俺、終わったんだけど」
「そこに雑誌あるから読んでていいよ」
「悪い陽介、ちょっと待ってて」


 一応返事を返してはくれるものの、ふたりの視線は俺には向かない。むっとして、だけど必死なを見ていると邪魔する気にもなれず、瀬多の言う通り雑誌を手にソファへと寝転んだ。
 こんなことになるんなら、他の奴も誘えば良かったなと今更後悔する。里中やりせなら喜んでやってきただろうし、そうすれば俺だけこんな思いをすることもなかったはずだ。いつもどおり瀬多ハーレムになることには間違いなしだけど…それでも、ひとりよりはよっぽどいい。
 つまり俺は、と瀬多がべったりなのが気に入らないわけだ。
 雑誌を見ている振りをして、ちらりとを見る。シャープペンの背を顎に当てながら、眉根を寄せて教科書を睨み付けている姿にどきりとする。教えてもらうためなのか、少し身を乗り出しているせいで、瀬多とは肩と肩がくっつくほど近い。
 俺も、瀬多ぐらい頭がよければよかった。そうしたら瀬多を頼ったりしないで、とふたりきり、勉強できたのに。
 結局は嫉妬なんだよなぁ。気付いて小さく溜息を吐く。するとばちりとと目が合って、心臓が跳ねた。


「もう少しだから。もうちょっと、待って」


 ね?と、ぽんぽんと膝を2度叩かれる。…我ながら現金だと思う。が気にかけてくれた、それだけで気分は浮上した。おう、と頷こうとすると今度は微笑ましそうな顔の瀬多と目が合って、罰の悪い思いをするはめになった。





( 2009/04/08 )