040 : 生徒手帳の写真 「おいチャイナ、何か落としたぜィ」振り向いて、沖田の前に落ちているのが生徒手帳だと気付いた瞬間、神楽は思わず駆け出していた。拾われるより先に両手で押さえ、スライディングセーフかと思いきや、指の間から開いた状態の生徒手帳が僅かに見えてぎくりとする。 「………見たアルか?」 恐る恐る顔を上げると、ニヤァ、と沖田の唇の端が吊り上がった。この反応は、間違いなく見られている。ということは、だ。しばらくはこの腹黒に振り回される日々が続くのだろうか。 生徒手帳を慌てて拾い上げて、カバンのポケットに突っ込む。今度はきちんとファスナーを閉めて、もう2度と落とすことがないように。 顔から火が出そうな、そんな感覚は初めてだった。恥ずかしい、本当に。銀八だって新八だって知らないことを、よりによって沖田に知られてしまった。 「知らなかったなァ、チャイナがを、」 「な、何のことアル?」 だらだらと冷や汗が流れる。沖田の口からという名が出るだけで落ち着かない。周りに聞こえていないかきょろきょろと見渡すと、当の本人と目が合ってびくりとした。 彼のフルネームはといって、何を隠そう生徒手帳に挟んでいる誰にも見られたくなかったものは、彼の満面の笑みが写った写真だった。つまり、は神楽の片想いの相手なのだ。 「…」 「おい総悟ー、あんま神楽苛めんなよー?」 にもバレたのだろうかと思って緊張がピークに達し、吐き気まで込み上げて両手で口元を押さえる。けれどどうやらその反応を、彼は違うように受け取ったようだった。 「何でィ、俺は落し物拾ってやろうとしただけだってーのに」 「お前の優しさには絶対裏があるんだよ」 この腹黒王子に面と向かってそこまで言って平気でいられるのは、このしかいない。例えば今の言葉を土方辺りが言ったのならば間違いなくあの手この手でやり返されているはずだが、今の沖田は憮然とした表情を浮かべるのみで、やり返そうという姿勢などまったく感じられない。それだけふたりは仲が良いのだ。神楽からしてみれば、優しいがどうしてこのサドと仲良くできるのかまったくもって不思議なのだが。 「神楽、総悟に苛められたら俺に言えよ?助けてやるから」 「う、うん。ありがとアル」 にこりと笑うにそう返すだけで一杯一杯な神楽を、沖田がニヤニヤと見ているのが分かる。 「見てんじゃねーヨ!」 その視線に居た堪れなくなった神楽は、思わずの前ということも忘れ、いつもどおりに怒鳴ってしまった。そのことに気付いたのは、沖田の笑みが更に深くなってからだった。 「覚えてろヨ、ハゲ!」 そう捨て台詞を残すと、神楽はカバンを両手で抱え、真っ赤な顔でばたばたと教室を飛び出していく。途中、その勢いで何人か弾き飛ばしたようで悲鳴が聞こえたが、神楽が戻ってくることはなかった。 神楽の暴走はいつものことなので、今更Z組のクラスメイトは気にすることもない。沖田とだけが、思い思いの表情を浮かべて顔を見合わせた。 「まだふっさふさだってーの」 「神楽、真っ赤になってたぜ。実はお前のこと好きなのかもな」 「…それ、本気で言ってんだとしたら、チャイナも報われねーな」 「?」
( 2010/02/21 )
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