098:続・先生の恋人

「なぁ、センセーって彼女いんの?」


 何だか最近どこかで聞いた台詞だなぁと思ったら少し笑みが零れた。最も俺が言われたわけじゃなくて、ただ単に偶然聞いてしまっただけなんだけれど。それにあの時問い掛けていたのは女子のグループだった。今俺の前にいるのは、3年Z組の生徒たち。授業を終えてさぁ戻ろうとしたところを質問があると囲まれて、ついでのようにそう問われたのだ。


「いないよ」
「嘘はいけませんぜィ。こっちにはいるって情報が入ってるんでさァ」
「ええ?誰から?」


 にやりと笑う沖田にそう問いかけつつも、何となく先が読めた。何せここは、銀八先生率いるZ組だ。


「うちの担任」


 ……ああほら、やっぱり。


「銀八先生、何て言ってた?」
先生には素敵な恋人がいるからお前ら狙わないように。ほんと素敵だから。これまじだから。…だったよね?」


 新八が思い出すようにそう言って、隣の神楽ちゃんに確認するけど、多分一言一句そのとおりなんだろうな、と思う。あいつならいかにも言いそうなことだ。


「違うアル。素敵な恋人じゃなくて、すっごく素敵な恋人だったヨ」
「え、そんな些細なところまで直されるの?」
「ネタ元がアレだからいまいち微妙なんだが、あそこまで言うの聞いたら気になってよ。…で、どうなんだよ、センセー?」


 生徒にアレとか言われてるよ、銀八先生。あなた普段どんな接し方をしてるんですか。俺がもし裏でアレ呼ばわりされてたら、1週間くらい凹む自信があるんですけど。
 そう思いながらやけに迫力のある土方に気圧されてじりじりと後ずさっていたら、気付けば壁際まで追い込まれていた。とん、と壁に背をついて、ようやくそのことに気付く。
 …これ端から見たら教師が生徒に恐喝されてるように見えるのかな。情けない。


「ちょ、何やってんだお前らァァァアア!!」
「ちっ、うるせェのが来た」


 沖田のその言い方はどうかと思ったけど、内容には激しく同感だった。廊下を走るなと生徒に注意しなければいけない立場のはずなのに、どこからか駆け付けた銀八先生は息も荒く俺の前から生徒たちをどかしにかかる。


「狙うなって言っただろうが!」
「何であんたの言うこと聞かなきゃなんねーんだよ」
「恋愛は自由でさァ。校則でだって禁止されてませんぜ?」


 ?どういうことだろう。3人の言い争う会話の内容がいまいち掴めない。
 首を傾げる俺の横で、神楽ちゃんと新八が呆れたように溜め息を吐いた。


「まったくみんな、先生大好きなんだから…」
「ほんとガキばっかアル」





( 2011/04/26 )