End of summer
蝉が、鳴いている。
ジィジィというその鳴き声をBGMに、は昼間から畳の上に寝転がっていた。
蝉の鳴き声はうるさいくらいなのにも関わらず、静かだと感じるのは何故なのだろう。
それは田舎ならではの特権なのかもしれない。
騒がしい音も、それが自然なものなら当たり前に受け入れられる。
「…きもちい、」
呟いた言葉は、誰にも聞き取られない筈だった。
だがカタンという物音の後に、くつくつと必死に堪え、けれど抑えきれないというような笑い声が耳に届く。
家族の声ではない。
ならば相手は、勝手にの家に入ってこれるような間柄の者に限られる。
そしてそんな間柄の者は、幼馴染1人しかいなかった。
ゆっくりと視線を移すと、その幼馴染が障子に手をかけて立っていた。
「たかや」
「お前、何やってんの?」
見れば分かるだろうに、この幼馴染はわざわざ聞いてくるところが意地悪い。
は体を起こして、隆也に向けていーっと歯を剥いた。
「うわ、生意気」
「どっちが」
「は、俺のどこが生意気だって?」
「そーいうとこ!」
ムキになるとは逆に隆也はもう気が済んだのか、ゆっくりとの隣に腰を下ろす。
それを不服に思いつつも、拘るようではまたバカにされるのがオチだ。
は一度深呼吸をして、改めて隆也を見た。
そしてその手元にグローブとボールが握られてるのに気付いて、まじまじと覗き込む。
「キャッチ?」
「ん」
「誘いに来た?」
手元からそのまま上に視線をずらしていくと、日焼けした隆也と目が合った。
こっくりと頷かれて、そっか、と笑う。
は膝で押入れの前まで移動して、がさがさと中を漁った。
昨日掃除をして全部適当に押し入れに突っ込んだために、どこに何があるのかはよく分からない。
「えーっと、確かこの辺に…」
「すぐ出せるとこにしまっとけよ、バカ」
「うるさいなー。…あ、あった!」
ほら、と自分のグローブを握って振り向けば、盛大に溜息を吐かれた。
それは無視して立ち上がり、は隆也に向かって手を差し出す。
隆也は何も言わずにその手を取って立ち上がった。
「なー隆也ー」
「何?」
「夏ももう終わりだなー」
「そうだな。…ていうか、宿題終わった?」
「完璧!ドリルと自主研究だろ」
「読書感想文は?」
「……そんなんあったっけ」
「あるけど」
「…………ま、いーや!隆也、今はキャッチに集中!」
「(今日手伝わされんな、俺)」
蝉の鳴き声が響く中、畳の上に大の字になって寝転ぶのが好きでした。
2005/08/27
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