この足が正常に動くのなら、今頃きっと、こんな風に大きな洗濯籠を持って、この青空の下、大量のユニフォームを干すことなんてなかっただろう。みんなからありがとうという言葉と一緒に差し入れをもらうことも、みんなのためにおにぎりの具を考えることもなかった。そう考えると俺の足が悪いのも、まったく気にならなくなるから不思議だと思う。…多分それは、2人の親友のおかげなのだ。 僕等に似合う青空の下 干したユニフォームがはたはたと風にはためいている。耳に心地よいその音をBGMに、まだ大量に残っている洗濯物を干していると、ざっざっと土を擦るような足音が近付いてきた。 「ひゃはっ、洗剤のCMみてぇだな!」 振り向くより先にそんな声が聞こえたせいで、相手が誰かという見当がついた。なら別に、振り向かなくてもいいか。そう思って振り向くのを止めたのに、肩を掴まれて、無理やり振り向かされてしまう。 力は強いけど、痛くはない。声の主―――洋一だったらきっと、こんな掴み方はしないだろう。そう思いながら視線を移すと、相手はにかっと笑った。 「俺も、同感」 「は?」 「洗剤のCMってやつだよ」 そう言った御幸の言葉に「ああそう」と返そうとしたのを察知したのか、洋一が不満げな顔で俺を睨み付けてきた。ただでさえ目付きが悪いのに、今じゃ極悪人のそれになっている。慣れてるからどうもしないけれど。 「お前もっとこう、何か反応しろよ。面白くねぇ」 「別に俺は洋一を楽しませるために此処にいるわけじゃないよ」 「はっはっは!そりゃそうだ!」 いつも思うけど、洋一も御幸も特徴のある笑い方をする。この笑い方を聞けば、誰だってそこにいるのがこいつらだということが分かるに違いない。 御幸が笑ったせいで洋一の文句の対象が俺から御幸に変わったことをこれ幸いに、俺は洗濯物を干すのを再開した。この2人に付き合っていると、いつまでも巻き込まれることになるのは重々承知している。これまでだって、何度も巻き込まれているし。 「手伝おうか?」 「ううん、いい。これは俺の仕事だから」 洗濯物を干したりおにぎりを作ったり。そういうのは、マネージャーである俺たちの仕事だ。御幸の言葉はありがたいけど、俺たちが支えるべき選手の手を借りるわけにはいかない。 そんな俺に、洋一がぼそりと「頑固者」と呟いたのが聞こえた。ぴくりとこめかみが震える。 「…お調子者」 睨みながら呟き返してやると、御幸がやれやれと溜息を吐いた。ああ!?と返ってきた言葉は、つーんと無視をする。御幸は俺の肩に腕をかけて爆笑しているけれど、そんなのは気にしない。 洋一が隣でぐちぐちと文句を言っている間、俺は最後のシャツ(多分これは増子さんのだ。大きいから)を干し終えて、でっかいカゴを両手に抱えた。 「御幸、行こ」 「おう」 「何で御幸だけなんだよ!」 敢えて無視した洋一に、べしっと背中を叩かれる。もちろん突然のことに反応できなくて、バランスを崩しそうになった俺の腕を引っ張って助けてくれたのは御幸だった。 俺の足が悪いことをまったく気にしないで、他の奴に対するのと同じように接してくれる洋一。過剰にならない程度に、何気なくフォローしてくれる御幸。この2人が傍にいてくれると、俺は足に対するコンプレックスを抱かずに済む。…楽だと思う、本当に。悔しいから、絶対に言ってなんかやらないけど。 「ありがと、御幸」 「どーいたしまして。もう、倉持くんてば最悪なんだから〜」 「さいあくー」 「お前らのが最悪だっつーの!!」
( 2007/10/22 )
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