※本誌ネタバレ注意 包み込むように ベッドで転寝をしていると、突然ドアが開いた。上半身を起こしてみれば、どこか虚ろな様子で御幸が立っている。ふらふらと中に入ってきた御幸は、ぼすんと俺の上に倒れ込んできた。「御幸?どした?」 ぽんぽん、と背中を叩くと、ぎゅうっと抱き着かれる。珍しいことだった。この間、試合に負けた直後もこんな感じではあったけれど、あれは落ち込んでいたのであって、今みたいに放心していたわけじゃない。 御幸が放心するようなこと。そんなのそうそうあるわけがない。だからこそ、3年生たちが引退した今、思い浮かぶ理由はひとつしかなかった。 「…御幸が…キャプテンに、選ばれたの、かな?」 「………」 沈黙はきっと、肯定の証。違っていたら御幸は、そんなわけねーだろ、と笑い飛ばしたはずだから。 …でも、そうか。監督は哲さんの後釜に、御幸を選んだんだ。 不思議な人選のようで、そうでもない気がする。上を目指す青道には、前を向き続ける御幸がぴったりなのかもしれない。 「…大丈夫だよ」 何が、と言われたら、きっとうまく答えられないけれど。心からそう思う。御幸がキャプテンなら、青道は大丈夫だ。 「御幸なら大丈夫」 背中を擦りながら、耳元で囁く。まるで暗示のようだと思う。だけどその言葉に偽りはない。 「うまくやろうなんて考えなくていいんだよ。御幸は御幸のまま皆を率いてくれれば、俺たちはそれを全力で支えるから」 「…」 「皆で頑張ろう」 ね、と笑いかける。それでようやく御幸も力無くだけど笑って、甘えるように俺の肩口に額を押し付けた。 「…お前、ホント最高。惚れ直した」 「マネージャーですから」 「そこは恋人って言うとこだろ?」 不服そうにしながら御幸はメガネを外して、さっきまでの放心は何処へ行ったのか、俺に乗り掛かってきた。キスを受け入れながら、服の中に手を入れようとする御幸の腕は掴んで制止する。 「これ以上はだめ」 「…なんで」 「いつ戻ってくるかわからないし」 一人部屋なら鍵をかけてしまえばいいけど、ここは3人一部屋が基本だ。今は2人とも出払っているとはいえ、そのうち間違いなく帰ってくる。 御幸は顔を顰めて、俺の隣に身を投げ出した。ぎゅうう、とさっきよりも強い力で抱き締めてくるのは、せめてもの抵抗なんだろうか。 「…キャプテン権限で、と同室になっかな」 「そんなことしたら先輩たちに怒られるよ…」
( 2010/08/25 )
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