「なあ」
「……」
「おい」
「………」
「無視してんじゃねえよ。聞こえてんだろーが」


 俺に話し掛けているのはわかってた。でも俺はなあでもおいという名前じゃないから無視してたら、頭のてっぺんを鷲掴みされて、無理矢理視線を合わされた。痛くはないけどバスケットボールを掴むようなそれにむかついて、無言のまま思い切り睨みつける。


「……」
「…何だよ?」


 睨み返されるかと思ったのに、青峰は不思議そうに問い掛けてきただけ。それに拍子抜けして、意固地になっている自分がばかみたいに思えてきた。
 はあ、と溜め息を吐く。と、頭上からも溜め息が聞こえた。


「機嫌悪ィな」
「…誰のせいだと思ってんの」
「俺かよ」
「青峰以外にいるわけないじゃん」
「ふーん?」


 俺は責めているつもりなのに、そう言う青峰はなぜか嬉しそうだった。いくら睨んでも眉を寄せても、にやにや笑っている。


「…何で嬉しそうなの?」
「お前の機嫌を左右できんのは俺だけなんだろ?」
「……知らない」


 違うと言ってもそうだと言っても今の青峰相手には喜ばせるだけだと思って、敢えてそう言って顔を背けようとしたのに、頭を掴まれているせいでできなかった。多分力の具合でそれに気付いたんだろう、ぶっと吹き出した青峰に、むーっと顔を顰める。


「かわいいな、
「かわいくなんてな……って、え?」


 まさか青峰の口からかわいいなんて言葉が出るとは思わなかった上に、その後続いた言葉…というか俺の名前に、本当は何を言われても無視しようと思っていたのに、思わず素で反応してしまった。睨むのも顔を顰めるのも忘れて見上げる俺を、青峰はさっき以上ににやにやして見下ろしてくる。


「俺に名前で呼んでほしいんだったら、さっさとそう言えよ」
「っ……」


 図星をさされて、かあっと顔が赤くなる。
 桃井さんのことを、さつき、と呼ぶ青峰。桃井さん以外の人のことだって、名字か名前でちゃんと呼んでいた。だけど俺のことはさっきみたいに「なあ」とか「おい」とか「お前」としか呼んでくれなくて、俺はそれが不服だった。
 でもまさか、そう思っていることに気付かれていたなんて。


「気付くに決まってんだろうが。俺のこと何だと思ってんだ?」
「なに、って」
「お前の彼氏だろ、バカ」


 そう言って、照れ隠しなのか何なのかわからないけどでこぴんされる。やっと頭を解放されたのは良いけど、自分の力が強いことを忘れないで欲しい。痛む額を両手で押さえた。
 それに、直接的な言葉は嬉しいけど、嬉しくなっている場合じゃない。


「…気付いてたなら、何でもっと早く呼んでくれなかったの」
「拗ねてるがかわいいから?」


 疑問系で言われても嬉しくないはずなのに、顔が熱くなるのはどうしてだろう。…認めたくないけど、やっぱり俺も青峰のこと好きだから…かな。

Call my name

( 2012/08/04 )
( 青峰は意外に可愛いとか普通に言いそうって夢見た結果がこれです )