贋物LOVER

「…なんでこんなことに…」


 そんな風に自分の運命をどんなに呪っても、夢のように醒めるわけじゃない。見せびらかすように腰に回された腕や悲鳴にも黄色い声にも聞こえる女の子たちの声、たまに混ざる男たちの野太い大きな声が俺と伊達の名前を呼ぶたび、これを現実だと思い知らせてくれる。
 俺、は、これで伊達政宗のコイビトだって全校生徒に認識されちゃいました。はい、もう後戻りなんてできませんとも。いや、キスされた時点でもう戻れないところまで行ってたんだろうけど。
 ……ああもう本当、何やってんだろ。泣きそうだよ俺。それなら何でOKしたんだ?って言われそうだけど、相手はあの伊達政宗だよ!?断ったら何されるか分かんないのに、そんな命知らずなことできるかよ…!


「What's wrong?」
「え?」
「具合でも悪ィのか?」


 俯かせていた顔を上げると、無駄に端整な顔が目の前にあった。またキスされんのかと思って一瞬体が強張ったけれど、どうやら真っ青になったり泣きそうになったりしてる俺を、心配してくれているらしい。
 …つーか伊達でもこんな心配そうな顔、できるんだ。意外だけど、女にモテる理由はこういうところにあるのかもしれない。普段俺様な奴に心配されたり優しくされたら、誰だってときめくもんな…って、だからって俺がこいつにときめいてるわけじゃないけどさ…!


「だっ、大丈夫!大丈夫だからその、離れてくんないかな!」
「What?」
「何でって…よくわかんねーけど、とにかく離れろっ」


 あまり人に接近されることには慣れてない。前に彼女はいたけど、相手が女じゃなく男となると、また話は違ってくると思う。
 今も嫌悪というわけじゃないけどくすぐったいような何とも言えない感じがする。でもそれをどう説明すればいいのか分かんないから、とりあえず無理やり伊達の体を押しのけようとした俺に、何故か相手はにやりと口の端を吊り上げた。…なんか、いやな予感。


「Huh…お前、俺に惚れたか?」
「はぁ!?」


 何言ってんだこの男!!俺が男に惚れた!?マジ有り得ない、自意識過剰もいい加減にしろよ…!喋ったのだってさっきが初めてだってのに!
 でもそれを本人に言えない俺。ちょー情けない。


「Don't be shy. 可愛いな、お前」
「かわっ…!」


 さわさわと腰を撫でられながら言われた言葉に、全身が総毛立つ。てか俺オトコだし、その前に英語で言われても何言ってんのかさっぱり分かんねーんだけど!!
 真っ赤になって口をぱくぱくさせる俺に伊達は気を良くしたのか、公衆の面前だってのにぎゅーっと抱き締めてきたりなんかする。俺はそれから逃れようとするのがやっとで、はっきり違うって言うタイミングを逃してしまった。…これって、すっげーまずいような気がする。
 でもとにかく俺、お前に惚れてなんてないっつーの!!





( 2007/07/21 )