『飯持ってこの間の教室まで来い』 もうすぐ昼休みになるって時に、そんなメールが届いた。黒板を見たままメールを開いたから誰から届いたのか分からなかったのに、分かってしまう自分に嫌気が差した。だってこんな偉そうなメールを送ってくる奴なんて、俺は今のところ一人しか知らない。 大体、飯持ってって何だ。俺と一緒に昼飯を食べたいんなら『一緒に飯食おうぜ』ぐらい素直に言えばいいのに、何でこんな高圧的なんだろう。…まあ、出会いからしてこんなもんだし、今更そんなメールを送られてきたところで驚くのが関の山なんだけどな。 『了解』 うちの学校は授業中に携帯を弄ってるのを見つかると、その日は一日中没収されてしまう決まりになっている。教師に見つからないようにこそこそと簡潔な文言だけを返して、携帯はそのまま机の中に突っ込んだ。 ていうか、伊達政宗は授業をちゃんと受けてんのか?あの教室でサボってるよな、絶対。 お子様LUNCH 「遅ぇんだよ、てめぇは」 一瞬、キレそうになった俺の気持ちを理解してもらえるだろうか。 授業が終わってすぐに購買で昼飯を買って、その足で此処に向かったっつーのにこの態度。ほんとぶん殴りたくなるね。負けるからやんないけど。 「悪ィな、。政宗はこういう奴なんだ。諦めろ」 「長さん」 拳を握り締めて怒りを抑える俺の様子がおかしかったのか、笑いながら長さんは俺の頭をぽんぽんと撫でた。それで怒りがすーっと静まるから不思議だ。 そのままの流れで長さんの隣に座ってパンに齧りつくと、痛いくらいの視線を感じた。あんまり見たくないけど無視すると報復が怖い。ちらりと視線を向ければ、こっちを睨む伊達政宗と目が合った。 「な、なんだよ」 「…お前、いつの間に元親と仲良くなったんだ?」 「伊達政宗の知らないうちにだけど」 やべ、と思ったときには遅かった。いつもの考える時の癖で、思わずフルネームで呼んでしまった。聞き流してくれりゃあいいのに、伊達政宗はそれに対して思いっきり眉を寄せた。 「俺はフルネームかよ」 「だって何て呼べばいいのかわかんねーもん」 「政宗でいいだろうが。呼べよ、」 「じゃあ、政宗」 許しが出たのなら、そう呼ぶことに躊躇はなかった。そもそも伊達政宗ってフルネームで言うのめっちゃ言い辛かったし。俺も大概アホだよな。伊達でいいのに、何でフルネームだったんだか。 伊達政宗改め政宗は、俺がそう呼ぶと嬉しそうに笑った。驚きの余り、手からぽろっとパンが落ちる。……てかさ、それは反則じゃないですかね?唯我独尊タイプだから、さっきまでと同じように、そう呼んで当然!みたいな態度を取られるかと思ってたのに…! 「…俺、お前のことよく分かんねぇ…」 「そうか?政宗はすげぇ単純じゃねーか」 遠い目をして小さく呟いた俺とは正反対に、長さんはそう言って豪快に笑った。そのことに対して政宗は怒るかと思ったのに、意外にも「うるせぇ」と一睨みしただけだった。 仲が良いんだな、と思う。もう少し一緒にいれば俺も、政宗のことを本人の前で単純だと言い表せるようになるんだろうか。 『政宗?ああ、めちゃくちゃ単純だよ、あいつ』 と、笑顔で誰かに語る俺。そしてその隣には政宗がいて、俺は一睨みされるのだ。 …想像してみたけど、何か物凄く嘘くさい。多分これは、長さんだからできることなんだろうな。佐助が言ったら言ったでまた、政宗は違う反応をするだろうし。だったら俺に対しても、違う反応が返って来るはずだ。…不思議だな。俺、どんな反応が返って来るのか、少しだけ楽しみに思ってる。 って、佐助? 「そう言えば、佐助は?」 今更ながら、きょろきょろと教室を見渡してみる。広い教室の中のどこにも佐助の姿は無い。気付かなかった俺が言うのもアレだけど、佐助がいないのは変な気分だ。 「、お前もしかして、幸村のこと知らねェのか?」 「知らない。誰それ」 「真田幸村。佐助の幼馴染みだ」 「へー、幼馴染みか。見てみたいな」 その真田幸村って人もだし、政宗や長さん以外と一緒にいる佐助にも興味があった。そんな俺を、政宗は心底嫌そうに見てくる。 「何だよ」 「見てどうするんだよ」 「は?別にどうもしねーけど」 「…お前もしかして、幸村に妬いてんのか?」 隣に視線を移すと、長さんがにやにやと嫌味な笑みを浮かべていた。政宗が幸村って奴に妬いてる?…俺の、ことで? 「What?何で俺が」 「そうだよ、長さん。政宗が妬くわけないじゃん」 政宗は俺のこと利用してるだけなんだし。 そう続けると、何故か政宗が俺の方を見た。驚いたような、そんな表情。どうしてそんな顔をするのか分からなくて首を傾げると、政宗ははっとしてすぐに視線を逸らした。 「ま、政宗がどう思ってたとしても、どうせすぐ会うことになるだろうぜ」 やっぱりニヤニヤしてそう言った長さんの予言は、すぐに当たることになる。
( 2008/12/22 )
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