机に突っ伏して眠る静雄を起こさないように、静かに前の席に座る。他のみんなは移動教室だからって無理やり起こしてキレられるのが嫌だったみたいで、5分前行動と言わんばかりにさっさと教室を出ていってしまった。だから今ここにいるのは、俺と静雄のふたりきり。 金色の髪が、陽に照らされてきらきらと光る。吸い寄せられるように触れると、ふわふわとしていて暖かかった。寝心地、良いんだろうなぁ。そう思うと頬が緩む。 キーンコーンカーンコーン… チャイムが鳴って、慌てて教室に駆け込む生徒の足音で廊下がばたばたと騒がしくなる。そして、無音。しばらくして隣の教室から授業する声が微かに聞こえてきた。 起きたかな、と思って静雄を見ると、まだ眠っていた。昨日は夜遅くまで起きていたのかもしれない。すーすーと漏れる寝息は気持ち良さそうで、この様子だとつっついても起きそうにない。 授業をサボる形になってしまったけれど、それは多分、誰かがうまいこと誤魔化してくれるだろう。戸も閉まっているし、余程のことがなければ俺たちが此処にいるとはバレないはず。 頬杖をついて、静雄の顔をじっと見つめる。目にかかっている邪魔そうな髪を掻き上げてやると、ぱちりと目が開いて、今まで寝ていたとは思えないほどの素早い動きで俺の腕を掴んだ。 「っ…ごめん、髪、邪魔かと思って…」 「……お前、うまそうな匂いする…」 「あ、イチゴの飴食べてる」 静雄に見惚れて、飴の存在をすっかり忘れていた。ころころと舌先で飴を転がす俺をしばらく眠そうな顔で見ていた静雄は、やがて目に光を宿して、自由な手で俺の後頭部を引き寄せた。 「っ、」 声を上げる暇もないほど俊敏に唇を奪われる。今ので歯をぶつけなかったのは多分奇跡。静雄の思惑に気付いた俺は薄く口を開いて、舌先に乗せた飴を差し出した。 「…甘い」 飴を受け取り、俺の口の端から零れた唾液まで舐め取った後、静雄は小さくそう呟いた。だからと言って嫌そうな顔をしているわけでもなく、ただ単に感想として思っただけのようだった。甘いものは好きみたいだから、そういうところはかわいいと思う。 「うまいよね。俺、飴ならそれが一番好きだな」 「…そうか」 眠そうだった顔が、少しだけ緩む。不意打ちの笑顔にどきりとして、今度は俺が突っ伏す番になった。 「?」 名前を呼ばれても顔は上げられない。だって俺今多分、凄く真っ赤だ。キスされてもここまでならないのに、静雄の笑顔には本気で弱い。 さっき俺がしたように、静雄が俺の髪に触れてくる。最近、静雄は俺に触れることに躊躇わなくなった。最初は壊してしまいそうだと言って、なかなか触れようとしなかったのに。ただ触れるだけなら大丈夫だって気付いたんだろうな。そのことを俺がどんなに嬉しいと思っているか、多分静雄は知らないだろうけれど。 「やわらけぇ髪……って、そういや他の奴らは?」 「音楽室で授業中…」 「鐘鳴ったのか。悪ィな、サボらせて」 「いや、俺こそ起こさなくてごめん」 「別に、がいるならいい」 きっと静雄からしたら、その言葉に深い意味はない。けれど俺にとってはとても嬉しくて幸せで、真っ赤どころか泣きそうになった顔はやっぱり上げられそうになかった。 サボタージュの恩恵
( 2010/08/25 )
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