◇Valentine's Day◇
『頼む!チョコの作り方を教えてくれないか!?』 どこか切羽詰ったようなメールがセルティから送られてきたのはついさっきのこと。何だか微笑ましくて、ついつい画面を眺めながら笑みが零れる。 「どうした?」 「んー、セルティがね、チョコの作り方教えてくれないかって」 カチカチとメールの返事を打ちながら答える。もちろん返事は『いいよ』。どうせこれから作る予定だったし、セルティのためにも新羅のためにも、協力してあげたいと思う。 送信したメールには、すぐに返事が返ってきた。もしかしたら返事が返ってくるのを待ち構えていたのかもしれない。文面からは喜びが溢れる様子が読み取れた。 約束したのは前日の夜、場所は新羅のマンションで。本当は俺の家で作れれば良かったんだろうけれど、相手がセルティだからそうもいかない。色々なことに寛容な俺の家族も、さすがに驚くだろうから。 それはいいにしても、前日の夜は静雄の家に泊まる約束をしていた。それを破るつもりは全然ないけれど、訪れる時間は大分遅くなりそうだ。 「ごめん静雄、13日なんだけど、来るの遅くなると思う。…それとも、静雄も一緒にやる?」 「やる」 「え?」 やんねぇよ、とか、そういう答えが返ってくると思っていたのに、即答で返ってきたのは肯定で、思わず問い返してしまった。じいっと見つめると視線を逸らされる。その横顔が耳まで赤くなっているように見えるのは、俺の気のせいなんだろうか。 「いいだろ、たまには。俺もお前に作ったって」 「…俺のために作ってくれんの?」 「他に誰がいるんだよ」 別に俺以外の誰かに渡すということを想像したわけじゃなくて、静雄も覚えたいのかなと思っただけなんだけれど。まさか俺のためだなんて想像もしなかっただけに素直に嬉しい。律儀な静雄はホワイトデーにはいつもお返しをくれていたけど、バレンタインは初めてだから尚更。 「じゃあ、今年は張り切ろうかな」 「が張り切ったら、俺もセルティもついていけねぇだろ」 「あ、そうか」 じゃあどうしようかな、と悩んでいると、不意に頭を撫でられた。 「そんなに悩まなくたっていいだろ。俺はお前の手作りなら何でも嬉しいんだからよ」 多分女の子だったなら、何でもいいって言われるのも微妙なんだろうけど、幸か不幸か俺は男なので、そんなのは気にもならない。…性別の問題というよりは、相手が静雄だからなんだろうか。静雄が俺が作ったものを喜んでくれる。それだけで、他のことなんてどうでも良くなってしまうのだから。
( 2011/02/05 )
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