「…幸せそうだね」 「そりゃあそうさ、幸せだもの」 にへえ、とだらしのない笑顔を浮かべて、の呆れたような視線をものともせずに新羅は答える。長年培ってきた想いが最近ようやく実ったのだから無理もないとは思うが、それでもそのだらしない表情はどうにかしてほしい。見ているだけで疲れるというか、気が抜けるのだ。 「ようやく僕たちもバカップルの仲間入りかー」 バカップルという名称はけして誇れるものではないはずだ。それなのに何故か新羅はその言葉に夢を見ているようだ。多分人目も憚らずにいちゃいちゃしたいのだろう。新羅ならやりかねないが、果たして相手がそれを許すかどうか。人前で抱き着こうものなら恥ずかしがって殴られそうだと思うのはだけだろうか。 そこまで考えて、はようやく新羅の言葉に違和感を覚えた。 「…も?」 新羅の周りにバカップルと呼ばれるような恋人たちがいただろうか。の周りには何組かいるが、新羅には友達が極めて少ない。ぽんと思い浮かぶのは自分と、あとは高校時代の同級生である3人だけだ。 「たちがいつもいちゃいちゃしてるのが羨ましかったんだよね、実は。まあ正直呆れ半分でもあったんだけどさ。だってほら、やっぱり友達のそういうところを見るのはちょっとねえ?」 「新羅」 「何だい?」 「誰と誰がバカップルだって?」 嫌な予感がしつつもそう問い掛ける。答えは聞きたくないが聞かざるを得ない。何かものすごい勘違いをされているのなら、その誤解を解かなければ。 「だから、と静雄が」 「俺と静雄がいつ新羅の前でいちゃいちゃした…?」 「え、何無自覚!?あんだけ静雄に好き好き言っておいて!?」 「う、そ、それは言ってるけど…っ」 新羅の言い方は気になるが、にはその言葉を否定できなかった。何故なら無自覚ではなく、はっきりと自覚があるからだ。 「静雄だってさあ、の話はあんなに素直に聞いちゃって」 「…静雄は基本的に素直だよ」 ただ、まだるっこしいことが嫌いなだけだ。ややこしい言い回しをしなければ、静雄はキレたりしない。 「気付いてる?にだけ優しい顔するの」 そんなこと、新羅に言われなくても気付いている。気付いている、が。…何故だろう。他人から自分たちの惚気を聞かされているような気分になるのは。 かああ、と顔が熱くなる。何だか泣きたかった。これなら新羅の惚気を聞かされていた方がずっとマシだ。 「ごめん、俺が悪かった。新羅の話を聞くから、許して」 「そうかい!?じゃあ何から話そうかな。僕がセルティと出会った時の話からにしようか!」 それから嬉々とした新羅に延々と話を聞かされながら、はこれからは人前では新羅曰くいちゃいちゃしないように気を付けようと固く心に誓うのだった。 image
( 2011/05/31 )
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