「髪伸びたね。切っていい?」 俺の髪が伸びてくると、はいつも顔を輝かせてそう聞いてくる。嫌だという理由がないから頷くと、次の瞬間にはもうの手にはハサミが握られていて、あっという間にイスに座らされ、ケープを巻かれた。 もちろん美容師だからといって、はいつもハサミを持ち歩いているわけじゃない。だから俺のところに来る時にはもう既に、俺の髪を切るつもりで用意してくるんだろう。 「いつもと同じでいい?」 「お前に任せる」 「はーい」 返事をするは酷く楽しそうだ。鼻歌でも歌い出しそうな様子に思わず笑みが浮かぶが、やっぱりその理由は気になった。 「なあ」 「なに?」 「何でそんなに楽しそうなんだ?」 は仕事で、毎日色んな奴の髪を切っている。まさかその度にこんなに笑顔を振り撒いているわけじゃないだろう。…もしそうだったら気に食わないが、ひとまずそれは置いておく。 正面に回って両手で俺の髪に触れていたは一瞬ぽかんとして、それからすぐにはにかんだ。 「だって静雄の髪弄られるから」 「それがそんなに楽しいのか?」 「楽しいって言うか、嬉しいって言うか…まあどっちもなんだけど、静雄の髪弄るの好きなんだよね」 「…そうかよ」 「うん。だから、俺以外に触らせないでね」 にこにこしながら、が独占欲を露にするのは珍しかった。美容師としてのプライドもあって、そこだけは譲れないんだろう。 しゃきしゃきと耳元でする音。髪にふんわりと触れるの手。鏡と俺を交互に見つめるの真剣な顔は、俺も好きだから異論はない。それに何より、こんなに近い距離を、以外に許すつもりはなかった。 My hairdresser
( 2012/03/24 )
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