今日は色んなことが起きる日だった。 ノミ蟲野郎は池袋に来てやがるわ、その妹2人に捕まるわ、客は逃げるわで。肉体的にも精神的にも、苛々と疲労はピークに達していた。 飯作んのめんどくせぇなと思いながら、家の鍵を開ける。途端に鼻腔をくすぐったのは、美味そうなカレーの匂い。 そこで今日がが泊まりに来る土曜だってことを思い出して、鍵も閉めずにキッチンに向かった。 「静雄?おかえ――わあっ」 キッチンにいたを抱き締める。首筋に顔を埋めて息を吸い込むと、ふわりと石鹸の匂いがした。 「くすぐったいよ」 そう言ってくすくす笑うに、抱き締める腕はそのままに顔だけを離す。はガスを止めて、こっちを向いた。 「おかえり」 「…ただいま、」 の笑顔を見ると、自然と頬が緩む。それだけでさっきまでの疲労も吹っ飛ぶような気がするから不思議だ。こういう日にがいてくれて良かったって、本気で思う。俺が何も言わずにを抱き締めたことで、何かあったって察してるだろうに、何も聞かないでいてくれるところも安心する。 「今日はカレーだよ」 「おう。匂いで分かる」 「ははっ、だよね。もう少しで出来るから、先に風呂でも入ってきたら?」 「…はもう入ったんだよな?石鹸とシャンプーの匂いする」 普通に抱き合うと、石鹸よりもシャンプーの匂いの方が際立った。いつもが使ってるやつじゃなくて、俺が使ってるやつの匂い。ここで風呂に入ったっていう証。 「あ、うん。だめだった?」 ここはもう半分の家みたいなもんなんだから好きにしていいのに、未だに不安そうにする。それを打ち消すために、即座に否定する。 「んなわけねえだろ。ただ一緒に入りたかっただけだ」 「い、一緒に…?」 正直に打ち明けると、ぼんっと音を立てそうな勢いで目の前の顔が真っ赤になった。一緒に入ったことがないわけではないし、お互い裸なんて見慣れているのに、いつまで経っても慣れないは可愛い。 「それはまた後でな」 ちゅ、と柔らかな髪に口付けてから離れて、風呂へと向かう。ちらりと振り向けば、その場にさっきよりも真っ赤になってへたり込むの姿が見えた。 髪に口付けたくらいで腰砕けにはならないだろうから、言葉の真意に気付いたんだろう。1回風呂に入っているのに、もう1回入らなきゃいけない理由なんてひとつしかない。それはが泊まりに来る毎回のことだとしても、恥ずかしがりやのにとっては考えるだけでも堪らないはずだ。 楽しみだな。そう思いながら、風呂の前に玄関に向かって鍵を閉めた頃には、疲労も苛々も、きれいさっぱり消えてなくなっていた。 Sweet Sweet
( 2012/04/15 )
( 新婚さんイメージ。おかげで静雄の偽物っぷりと恥ずかしさが当社比2倍 ) |