と一緒に帰る約束をした。だから先に準備を終えた黄瀬は、が着替え終えるのをベンチに座って待っている。ちなみに緑間は用事があるらしく、部活が終わってすぐに帰った。2人で帰るのは、これが初めてだ。 ぼんやりとの後ろ姿を眺めていると、徐にはTシャツを脱ぎ始めた。露になった肌は思いの外白く、剥き出しの肩甲骨がやけに艶かしい。 思考が妙な方向に向かいそうになったところで、慌てて視線を逸らす。今度は床と睨めっこをしながら、黄瀬は小さく溜め息を吐いた。 の裸を見るのは、何も今が初めてというわけではない。同じ学年の、同じ部活なのだ。むしろ一緒に着替える機会は多い。 けれど今まで何とも思わなかったことが、ある日突然そうではなくなることもある。黄瀬の場合、の裸を見られなくなったのは、の秘密を知ってからだった。 に自分がホモかもしれないのだと打ち明けられたのはつい最近のことだ。男もいけるかと問い掛けられて、分からないと答えたのも記憶に新しい。 ……そう、分からなかったのだ。そもそも男相手に恋愛感情を抱くなど考えたこともなかったし、今まで付き合ってきたのもみんな女の子だ。きっとこんなことさえなければ、今までどおりこれからもそんなこと考えもせず、女の子と楽しくやっていったのだろう。 けれど、考える機会が訪れた。大好きな友人がホモかもしれないと悩んでいるのだ、自分には関係ないと知らんぷりをすることなど出来ない。 そして、考えた結果。黄瀬は、今までのように純粋にの裸を見られなくなったのだった。 女の子の体は柔らかくて気持ちいい。だが、の体はけして柔らかそうには見えない。それでも、あらぬ想像を――否、正直に言ってしまえば妄想だ。それを膨らませてしまう。その肌に触れたら、は一体どんな反応を返すのだろうかと。 興味とか、好奇心とか。そういうのがまったくないとは言わない。けれど、それだけとも言えなかった。黄瀬の心には、を好きだという気持ちが確かにある。それが友情なのか愛情なのか、判断がつかないだけで。 「涼太、お待たせ」 こうして名前を呼んでもらえれば嬉しいし、笑いかけてもらえば胸が温かくなる。他の誰にも抱いたことのないこの感情は――一体、何だというのだろう。 「…怒ってる?遅くなってごめんな?」 ベンチに座ったまま見上げる黄瀬はどんな表情を浮かべていたのか、は何か誤解をしたようで困ったように眉根を寄せた。もちろん黄瀬は怒っていたわけではないので、慌てて取り繕う。 「やだなー、怒ってなんかないっすよ!」 「本当に?」 「本当っす。ただ、腹減ったなーって」 嘘は吐いていない。きつい練習の後だから、確かに黄瀬の胃は空腹を訴えている。 へにゃりと笑ってみせると、はあからさまにほっとしたような表情を見せた。彼が人からの反応にこんなに敏感になっているのはきっと、例の秘密が関係しているのだろうと思うと胸が痛い。 「何だ、そっか。じゃ、飯食って帰る?」 「っちの奢りっすか?」 「何でだよ。割り勘に決まってんだろ」 ははっと笑いながら黄瀬の手を引っ張って立ち上がらせ、脇に置いていたカバンを押し付けてくる。 「帰ろ、涼太」 未だ腕を掴むの手の温もりを感じながら、思う。もし黄瀬が女だったなら、この温もりは長くは感じられなかったのだろう。こんなに気軽に触れてもらえることもなかっただろうし、先日が桃井に触れた時のように、体全体で拒否反応を起こされるのは辛い。 友情か恋愛かはまだ分からないけれど。自分が男でよかったとこんなにも強く感じたのは、後にも先にもこの時だけだった。 例えばどんな君でも、
( 手放したくはないから )
( 2010/09/14 ) |