ふと窓の下を見下ろしたら、丁度友達が告白されているところだった。それも好きだって言ってた女の子から。友達は見たこともないくらい真っ赤になってて、しどろもどろになりながら頷いているようだった。 カップルが出来上がる瞬間なんて、初めて見た。それはとても微笑ましくて、俺には少しだけ――…胸が痛む光景、だった。 「、何見てんだ?」 ひょい、と背後から俺と同じように窓の下を覗き込んだのは大輝。一瞬まずいかな、と思ったけど、知らない奴が女の子と話しているところなんて大輝には興味がなかったようで、すぐに背を向けて窓に寄り掛かる。そして俺の顔をじっと見つめ、にやりと笑った。 「ぶっさいくな顔してんぞ」 不細工を強調した言い方をして、大輝は俺の頬を軽く抓ってきた。む、として、その手を払いのける。 「不細工ですいませんね」 「…笑ってりゃそーでもねーけどな」 ぼそりと呟かれた言葉がうまく聞き取れなくて、首を傾げる。聞こえなかったっていう意思表示のつもりだったのに、大輝は気付きながらもそれを無視した。別に大したことじゃなかったんだろうと、俺も聞くのを諦める。大輝のことだから、しつこく聞き返すとキレるだろうし。 「お前、あの男のこと好きなのか?」 「あの男?…ああ、」 それは多分、今もまだ窓の下にいるはずの俺の友達のこと。 「違うけど、何で?」 「別に」 愛想のない返事に、もしかして、と思う。もしかして大輝は、俺が胸を痛ませたことに気付いたんだろうか。顔に出したつもりはなかったけど、いつもは言わないような大輝の言葉から考えても、変な顔をしていたのかもしれない。だとしたらあの言葉も、全然痛くなかった意地悪も、大輝なりに俺を慰めてくれようとしていたんだろうか。 そう考えたら、自然と笑みが零れた。きっと真ちゃんならもっとうまくやるだろうし、涼太なら笑わせようとするんだろう。相手に気付かれにくい不器用なやり方は、あまりにも大輝らしい。 「何笑ってんだよ」 「別に?」 「真似すんな」 そう言ってぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でるのはきっと照れ隠し。普段は俺様な大輝だけど、こういうところは少し可愛い。 「心配してくれた?」 「は?俺がお前の心配なんかするかよ」 「うんうん、ありがとね」 「してねーっつってんだろ!」 だけど浅黒い肌が真っ赤だ。そんな真っ赤な顔で言われても信じられない。 それを言うと大輝は憮然とした表情を浮かべて、ちっと舌を打った。 「あいつを好きなわけじゃないんだけどさ。…俺にも彼女出来るのかなって思っちゃって」 「”彼女”が欲しいのかよ?」 大輝はふざけるでもからかうでもなく、真剣な顔でそう問い掛けてきた。その言葉にどきりとする。 大輝は俺の事情を知っている数少ない相手だ。知っているからこそ、当然のように沸き起こる疑問。それを突き付けられて、苦笑いが浮かぶ。 「それが普通だから」 「じゃあお前は、男を好きになっても普通じゃないからって理由で好きでもない女と付き合うのか?」 「っ、」 ぴく、と頬が引き攣った。大輝の言葉はいつだって真っ直ぐで、目を逸らそうとしていた自分の浅ましさを指摘する。 女の子が嫌いなわけじゃない。普通に話せるから、苦手ってわけでもないはずだ。だけどそれは、触らなければの話。気を許している桃にさえ、少しでも触れば俺の体は拒絶反応を起こす。こんな体で、女の子と付き合えるわけない。好きになった子なら違うのかもしれないけれど、正直な話、女の子といるよりも男友達と一緒にいる方が楽しいし気が休まる。だから散々悩んだ後に、好きになるのは男なんだろうと漠然と思うようになった。 だけど、そんなの普通じゃない。真ちゃんも涼太も大輝も、俺がホモかもしれないということは分かりながら友達でいてくれてるけど、実際にそうだった時まで友達でいてくれる保証はどこにもない。3人に嫌われるくらいなら、拒絶反応が起こったとしても女の子と付き合った方が良いんじゃないかと思ったんだ。 ずっと気に止めなかったクラスの喧騒が、突然耳に飛び込んでくる。昨日のテレビや部活の話で盛り上がるクラスメイトの中で、俺たちだけが将来を左右する重大なことを話しているのは明らかに異質だった。だけど誰も俺たちのことなんか気にしない。感じるのは、大輝の突き刺さるような視線だけ。 「」 鋭い視線が痛くて視線を逸らしても、大輝はそれを許してくれない。そろそろと視線を上げると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。 「本当に好きになった奴と付き合えよ。…が普通じゃなくたって、俺もあいつらも、お前を嫌いになったりしねぇから」 「…うん…」 …どうして大輝は、俺の欲しい言葉を言ってくれるんだろう。こんなのは、ずるい。普通じゃない俺を受け入れてくれるだけで良かったのに、優しくしてくれるなんて。 鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなる。赤くなっているだろう鼻の頭を、大輝がもう一度不細工と笑いながらぎゅっと摘まなければきっと、俺は泣いてた。 例えばどんな君でも、
( 大切だから )
( 2012/03/24 ) |