「あっ、」 「あ?」 「あーーーーー!!!」 「……!!」 ふざけた大輝と涼太が真ちゃんの眼鏡を割ってしまったのは、部活が終わって着替えていた時のことだった。 ぱきりという軽い音に俺たちが思い思いの声を上げた後、しんとしたのは一瞬。当然真ちゃんは、ふたりに烈火の如くキレた。それはもうものすごい剣幕で。あの大輝ですら、勢いに飲まれて唖然としていたくらいだ。涼太なんか半泣きだった。 けれど10分近く怒られて、ふたりはすっかり拗ねてしまって。最後は俺が止めるのも構わずに、さっさと帰ってしまった。眼鏡がないと真ちゃん何も見えないのに、薄情だと思う。 だからというわけじゃないけど、俺が真ちゃんを自宅まで送ることにした。真ちゃんは珍しく遠慮しなくて、本当に困ってたんだと思ったら、何かすごく申し訳なくなった。…大輝と涼太のこと、ちゃんと止めておけばよかった。 だけど帰り道。俺より申し訳なさそうにしてたのは、真ちゃんの方だった。 「…すまないな、」 「真ちゃんのせいじゃないんだから、謝らないでよ」 「まあ、そうなのだが」 「それより、手、嫌じゃない?」 真ちゃんが転んだり何かにぶつかったりしないように、俺の左手は真ちゃんの右手と繋がれている。部活終わりで外は真っ暗だし、人もまばらだからこそできること。 俺は真ちゃん相手なら気持ち悪くならないから良いけど、真ちゃんもそうとは限らない。自分が女の子と手を繋ぐことに嫌悪感がある分、俺も真ちゃんに対して嫌悪感を与えているんじゃないかと思ってしまう。今まで散々手を握ったりしてきたけど、こうやってきちんと手を繋ぐのは初めてだから尚更。 不安に思って問い掛けると、真ちゃんは不思議そうに首を傾げた。 「嫌なら最初から繋がない」 「…本当?」 「何で嘘を吐く必要があるのだよ」 呆れたように溜息を吐いてふっと笑う真ちゃんに、不安が霧散する。嬉しくなって繋いだ手をぶんぶんと前後に大きく振ると、ふざけるな、と怒られてしまった。 反省しつつ、真ちゃんの手を引きながら、いつもよりのんびりと歩く。ゆっくり流れる景色は、まるで違う世界のようだ。 誰かとこうして手を繋いで歩ける日が来るなんて、少し前までは絶対無理だと思ってた。 「ねえ、真ちゃん」 「何だ?」 「俺にも、こういうことできる恋人ができるかな」 「………」 『本当に好きになった奴と付き合えよ。…が普通じゃなくたって、俺もあいつらも、お前を嫌いになったりしねぇから』 大輝がそう言ってくれたあの日から、俺が相手のことを好きで、相手も俺を好きでいてくれるなら、彼女じゃなくて彼氏でもいいって、そう思えるようになった。だから、恋人。きっと聡い真ちゃんなら、その言葉の意味に気付いただろう。 無言の真ちゃんを横目でちらりと見ると、見えないからか目を細めて真ちゃんが俺を見ていた。その顔が思いのほか優しくて、どきりとする。 「…こうやって人を助けることができるなら、きっといい相手が見つかるのだよ」 そしてそう言って、繋いだ手をぎゅっと握ってくれるから。さっき以上に嬉しくなって、自然と頬が緩んだ。 俺がホモかもしれないって泣き付いた後も、真ちゃんはそれまでと変わらない態度で接してくれた。だからかな。真ちゃんが大丈夫と言ってくれるなら、俺にもいい相手が見つかるって無条件で信じることができる。 できることならそれは、真ちゃんみたいにちょっとだけ手が冷たくてやさしい人がいいと、そう思った。 例えばどんな君でも、
( きっと誰かの一番になる )
( 2012/06/03 ) |