朝。真ちゃんに会った瞬間、なぜかマフラーをぐるぐる巻きにされた。口まで覆われて顔を上げると、耳に付けられたふわふわの耳当て。手にもいつの間にか、手袋がはめられている。この手袋は、真ちゃんがいつもはめているものだ。 …一体、どうしたんだろう? 「…これで良いのだよ」 耳当てのせいでくぐもってはいるけど、どこか安心したような真ちゃんの声色に首を傾げた。 「良いって、何が?」 「今日のおは朝を見なかったのか?」 眼鏡の奥の瞳にじろりと睨まれる。思わず首をすくめると、真ちゃんはこほんと咳払いをして、眼鏡の位置を直した。 「…おは朝の占いでは、今日のは風邪をひくかもしれないそうだ。だから、あったかくしておけ」 「あ、うん…ありがと」 真ちゃんがおは朝を気にしているのは周知の事実だけど、まさか俺の星座までチェックしてくれているとは思わなかった。気遣ってくれたことが嬉しくて、自然と頬が緩む。 「見ていないのなら、これも一応持って来て正解だったな」 そう言った真ちゃんに渡されたのは、うさぎのぬいぐるみだった。今の流れからすると、きっとこれは俺のラッキーアイテムなんだと思うけれど。…小さめとはいえ、ガタイのいい男子高校生がこれを家から持ってきたのだと思うと、ちょっとかわいい。 「これ、真ちゃんの?」 「そんなわけないだろう。借りてきたのだよ」 「じゃあ、帰りに返すね。ありがとう」 とはいうものの、学校までどうやって持って行こう。真ちゃんはカバンに入れてきたみたいだけど、俺のカバンには入りそうにない。抱えていくしかないかな、と思って抱き直すと、吹き出す音が聞こえた。見れば、真ちゃんが口元を押さえて顔を背けている。 「真ちゃん?どうしたの?」 「…いや、似合うな」 「似合う?」 何がだろうと視線を落とすと、うさぎが目に入った。…もしかして、これのこと?かわいい女の子が持っているならまだしも、俺が持っていたっておかしいだけだと思うんだけどな。 ふと思い立って、真ちゃんにうさぎを押し付けてみた。 「?」 当然、突然のことに真ちゃんは驚いたような声を上げたけど、うさぎのぬいぐるみは落とさないよう胸に抱いていた。 「ふはっ」 その姿があまりにもミスマッチで、思わず吹き出してしまう。そんな俺に眉根を寄せていた真ちゃんは、しばらくして理由に気付いたらしく、わずかに顔を赤くして俺にうさぎを押し付けてきた。 「似合ってたのに」 「お前、俺をからかっているだろう…。第一、それはが持ってないと意味がないのだよ」 「そういえば、真ちゃんのラッキーアイテムは?」 いつも手に持っているのに、今日はカバン以外何も持っていない。気になって問い掛けると、真ちゃんは思い出したようにはっとした表情を浮かべた。 「は鉛筆を持ち歩いていたよな。それを貸してくれないか」 「鉛筆?いいけど…真ちゃんのは?」 普段はシャープペンシルを使っているとはいえ、鉛筆が家にないとは考えにくい。貸すのがいやなわけじゃなくて、むしろ頼ってくれて嬉しいんだけど、家にあるものを使わないことが単純に不思議だった。 カバンからペンケースを取り出しながら問い掛けると、真ちゃんは珍しく視線を彷徨わせた後、観念したように溜息を吐いた。 「…家にはあるが、うさぎのぬいぐるみに気を取られて忘れてたのだよ」 「え、ごめん」 それじゃ俺のせいだ。反射的に謝ると、真ちゃんは首を横に振った。 「…いや、……」 口が動いているから何か喋っているのは分かるのに、耳当てでうまく聞こえない。 「ごめん、うまく聞こえなかった。何て言ったの?」 耳当てをずらして首にかけてから、もう一度聞いてみると、真ちゃんはなぜか睨んできて、さっきよりわかるくらいに顔を赤くした。 「だから…家を出る時に思い出したが、から借りた方が効きそうだと思って持ってこなかったんだ。が謝る必要はない、と言ったのだよ」 きっと、顔が赤いのもその言葉にも、真ちゃんからすれば深い意味はない。でも俺にはあんまり見られないその表情も言葉もどうしようもなく嬉しくて、真っ赤になっているだろう顔をマフラーに埋めて、さっきペンケースから出した鉛筆を差し出した。 「ありがとう」 表情を和らげて受け取った真ちゃんに、どうかその鉛筆がいつも以上の幸福をもたらしてくれるよう祈りを込めて。 fortune-telling
( 2013/01/14 )
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