、これ貰ってもいいか?」
「うん、いーよ」


 頭上から降ってきた緑間の声に、視線もやらずに頷いてから顔を上げると。


「……あ、」


 緑間が、のボトルを口に含んでいるところだった。
 思ったよりも大きく響いてしまった自分の声に、は慌てて口を両手で覆う。けれど声に出てしまったことがなくなるわけではなく、案の定の声を拾った緑間は、怪訝そうに眉を顰めた。


「何だ?…やっぱりだめだったか?飲んでしまったが」
「え、や、ちが、だめじゃない…!飲んでいいよ!」


 が動揺している理由にまったく思い当たる素振りも見せない緑間は、やっぱり怪訝そうにしながらも、余程喉が渇いていたらしく、もう一度ボトルに口をつけた。こくこくと嚥下するたびに動く喉仏がやけに色っぽくて、はさっと視線を逸らした。


「…意外だな。真太郎は気にすると思っていたが」
「わあっ」


 逸らした視線の先にいたのは、練習を終えたばかりとは思えないほど涼しげな顔をした赤司だった。


「何の話だ?」


 十分喉が潤ったのか、軽くなったボトルをに渡しながら、緑間が赤司に問い掛ける。そのボトルを受け取ったが顔を赤く染めたのをちらりと見て、淡々と赤司は答えた。


「間接キスのことだよ」
「間接…」
「ちょっ、征…!」


 当然うろたえたのはの方だ。不思議そうにする緑間を気にしながら、それ以上何も言うなと赤司の口を押さえる。


「変なこと言うなよ!」
「事実だろう」
「そうだけど…っ」


 緑間は何も意識していなかったに決まっている。それなのに間接キスだと指摘されたことで、真ちゃんが嫌がる素振りを見せたらどうしてくれるんだ、と心の中では赤司に詰め寄るが、実際に緑間の前でそんなことが言えるはずもない。まだ何か言いたげな赤司の口元を押さえながら、どうしようと考えていると、の肩を掴む手があった。―――緑間だ。


「そのことなら、意外でも何でもないだろう」
「え…」
「そうは思えないが」
「赤司の言うとおりなのだよ。俺は間接キスを好まない」


 きっぱりと言い切った緑間の言葉が、の胸に突き刺さる。けれど、傷付いたのも束の間。


なら平気だから、ボトルを借りただけのことだ」


 続けられた言葉に咄嗟に顔を上げると、緑間は赤司ではなくを見ていて、まるでを安心させるかのように頷いた。それに力が抜けて、手から持っていたボトルが零れ落ちる。転がったボトルを拾った赤司は「なるほど」と呟いて、頬を緩めた。


「確かにそれなら、意外でも何でもないな」

間接キス

「それに、それを言うなら赤司もだろう」
「そうだな。でも、僕もなら大丈夫だ」
「へ?あ、ありがとう…」





( 2013/03/17 )