「はいっ、これはのね!」 部活が終わって帰ろうとしていたところ、どこか楽しそうな桃井にラッピングされた箱を渡された。今日はバレンタインデー。桃井は黒子に渡すのだろうとは思っていたが、どうやら部員全員に用意してくれたらしい。に渡した後、部員たちに声をかけてはチョコを渡している。 桃井以外にもチョコを用意してくれた女の子たちはいたのだが、はそれを全部断った。義理ではない本命だと分かったからだ。その点桃井は明らかに義理なので(何せ黒子が持っているチョコだけ異様にでかい)、安心して受け取れる。 「っちはチョコ、くれないんスか?」 「え?」 「あるなら貰ってやってもいーぜ」 こっそりと鳥肌が立っていないことを確認して安堵していると、黄瀬がそう声をかけてきた。その隣で早くもチョコの包み紙を破りにかかっていた青峰も、にやりと笑って手を出してくる。そんなふたりに、はきょとんと首を傾げた。 「バレンタインって女の子から男にチョコを渡す日だろ?」 「それは日本だけっスよ〜」 何故かがっくりと肩を落とした黄瀬の言葉に、そうなの?と視線だけで緑間に問い掛ける。それが通じたらしく、緑間はどこか呆れたような表情を浮かべながらも頷いた。 「まあな」 「へえ、そうなんだ。知らなかった」 「じゃあ用意してないのかよ?気ィ利かねーな」 吐き捨てるような青峰の言葉にかちんときたは、自分だけが用意する必要などないのだということに気付きもせずに、何かないかとがさごそとバッグの中をあさり始めた。けれどそう都合良くチョコが入っているわけもなく、見つけたのは今朝買ったばかりの喉飴のパッケージ。それでも何もあげないで文句を言われるよりはマシだと、まずは1つを黄瀬に手渡す。 「飴?」 「飴かよ」 「だってこれしかないし」 今度はケチをつけてきた青峰には投げ付けてやった。喚く彼を無視して桃井や他の部員たちにも渡したあと、最後に緑間に2つ手渡す。もちろん、それを黄瀬や青峰が見逃すはずがなく。 「ちょ、何で緑間っちには2つなんスか!」 「、俺にももう1つよこせ!」 「もうないよ。真ちゃんは、さっき声掠れてたから」 体調管理をきっちりする彼が風邪をひくわけがないから、きっと練習で声を上げすぎたのだろう。だから2つ渡すのだと主張すると、それまで黙っていた緑間が、ふっと表情を和らげての頭を撫でてくる。 「ありがとう、。助かるのだよ」 「…うん、どういたしまして」 ふにゃりと笑うに、緑間はと自分を不服そうに眺めていた黄瀬と青峰を睨み付けた。どうやら催促ばかりするふたりに、静かに怒りを募らせていたらしい。 「に貰ったのだから、ホワイトデーに返すのを忘れるなよ」 そして冷たい声でそう言って、騒がしかったふたりを黙らせた。
( 2011/02/06 )
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