「フジって好きな子とかいないの」 さらりと投げ掛けられた質問に、一瞬時が止まった。その原因であるはポッキーをくわえながら次に手を伸ばしていて、俺の方を見てもいない。 こんなに動揺させたのはのくせに、興味なさげにされると腹が立った。だからがくわえたままのポッキーを反対側からくわえてやると、ぴきり、と今度はの時間が止まったかのように、目の前の表情が固まった。 ざまあみろ、と心の中だけで思う。 「いるよ、好きな奴」 「え、いんの?誰?」 「」 「?そんな奴いたっけ」 「俺の前にいるだろ」 ここまで言ったらフツー通じるはずなのに、くるっと背後を見る。自分の名前を忘れてるのか、女って決め付けてるからなのか…どっちにしろ、鈍感にもほどがある。 「ちょっとこっち来い」 仕方ないからの腕を掴んで、無理やり教室から連れ出した。目立つのを承知でずるずると引っ張って保健室まで行き、を室内に押し込む。ついでに歓迎モードの先生を教室から追い出して鍵をかけた。鍵は持ってんだろうけど、まさか開けて入ってくるなんて無粋な真似はしねーだろう。 ぽかんとしたはまだポッキーをくわえていた。どんだけ器用なんだよ。 「俺が好きなのはだって言ってんだろ」 「それ、さっき聞いたけど」 「まだわかんねーのかよ…。はお前だろ、バカ」 「え」 鈍すぎるのも考えものだ。こっちが一世一代の告白をしてるってのに、ここまで言わないと当の本人が気付かねぇんだから。 俺ばっかり真剣でいるのがバカらしくなってきて、未だ放心中のを放ってベッドに寝転がった。意外だったのは、もついてきて同じベッドに座ったことだ。顔はまだぽかんとしてたけどポッキーはなくなっていて、辺りを見渡すとさっきまでが立っていたところに落ちていた。それくらいは動揺させられたみたいだ。 「…フジ、俺が好きなの?」 「さっきからそう言ってんだけど」 皮肉を言いつつ、ようやく通じて内心ほっとする。 肘を立てて上向けた手のひらに頭を乗せると、俯いたの顔がよく見えた。普段はぼんやりしているせいであんま目立たないけど、地味に整ったきれいな顔が、困ったように歪められている。 「…迷惑?」 「や、迷惑じゃないけど、不思議で」 「不思議?」 「フジってホモなの?」 直接的なその言葉に手のひらから顎がずり落ちる。 「ちげーけど」 「だって俺を好きって」 「好きになったのがだったってことだろ」 「…なんで可愛い女子いっぱいいんのに、俺なのかわかんない。フジだったら選り取り見取りなのに」 困ったような顔をしてたから気持ち悪がられたのかと思ったけど、どうも違うみたいだ。単純に俺がのどこを好きになったのか、それだけが不思議らしい。 でもこの反応を見ていたら、押せば何とかなるような気がしてきた。俺のこと嫌いではないみたいだし。 「選り取り見取りなら、お前でも良いんじゃねえの」 「…そういうことになんのかな」 「そうだろ」 好きになった理由なんて色々あるけど、それを言うのは面倒で照れ臭い。だからごり押しでいくと、はで「そうだね」なんて言ってきた。あともうすこしだ。 「お前は好きな奴いんの」 「いないけど」 「俺のことは?」 「フジ?好きだよ」 その好きの意味が、友情だってことくらい分かってる。分かってるけど。鈍いを手に入れるためには、これを利用しない手はないと思った。 「じゃあ、俺と付き合えるよな?」 「え?」 「俺はが好きで、も俺が好き。付き合うには十分だろ」 「んー…まあ、そうだね」 思っていたよりずっと簡単に頷かれて目を見開く。…俺が言うのもなんだけど、こいつ大丈夫なんだろうか。小さい頃、お菓子やおもちゃにつられて誘拐されかけたりしてるんじゃないのか? 「何か俺に失礼なこと思ってない?」 「…思ってねーよ」 「別に流されてるわけじゃないよ、俺。ちゃんと考えたし」 「何を」 考えを読まれていたことにぎくりとする。それに気付かれないようにとっさに切り返すと、はうーんと唸った。 「あの面倒くさがりのフジがわざわざここまでして俺に好きだって言ってくれたってことは本気なんだろうなとか、そういうフジだったら付き合っても良いかもとか、ちょっと必死なところが可愛いとか」 「最後のは余計だ!」 必死だった自覚はあるからなおさら恥ずかしい。怒鳴った俺にはにんまりと笑った。 「だからさ、付き合っても良いよって言ってんの。嬉しくない?」 その時思い出した。普段はぼんやりしてるし人の話も聞いてるか聞いてないかわかんねえし鈍いけど。はテストの点数だけはめちゃくちゃ良いんだってことを。 嬉しい、と半ば強制的に言わされながら、さっき考えたことを撤回する。こいつは誘拐されるような奴じゃない。お菓子やおもちゃだけ貰って、さっさと消えてしまうような奴なんだ。 Whereabouts of initiative
( 2011/05/15 )
|