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 練習風景を見る実南は、15なんて多感な年頃のくせにまるで小さな子どものようにキラキラしていた。その姿から目を放せなかった俺はきっと、そんな実南を見るのが好きだったんだろう。

出発前夜

「…実南ー」


 ちょいちょいと手招きすれば、素直に寄ってくる体を抱き締める。女のように柔らかいわけじゃない。少年から青年になろうとしている、れっきとした男なのに、どうしてこんなにも抱き心地がいいんだろうな。


「達海くん…?どうしたの?」


 変声期を迎えた実南の声は、先日まで掠れて違和感があったものの今は落ち着いて、すとんと胸に染み入る穏やかな声になっていた。こうやってこいつは大人になっていくんだろう。その経過を見られないのは、残念な気がする。
 口を開けば無意識に明日ETUを去ることを言ってしまいそうだった。大人になりかけてるガキのくせに、実南が一丁前に俺を心配するようなことを言うからだ。弱音を吐くつもりはないが、10も下の男に甘えたくなるなんて、思っていたよりも俺は参っていたのかもしれない。
 余計なことを言う前にこの雰囲気を打ち消そうと、実南の脇腹をくすぐってやった。そこが実南の弱点だってことは重々承知の上で。


「っ!?うわっちょ、たつみくんやめ…ひゃははははっ」


 涙目になるくらい笑った実南は、疲れたらしくぐったりと俺に寄りかかってきた。少し腕を動かそうもんならびくっと反応して身構えるくせに、俺から離れようとしない実南を見てたら、自然に笑っていた。


「ははっ、もうしねーよ」
「――…」
「ん?どうした?」
「…達海くんが笑ったの見るの、久しぶりな気がする。何でだろ、今までだってフツーに笑ってたよね?」


 ボケたかなあ、と呟く実南に唖然とした。…多感期だからなのか?ずばり言い当てられれば、そりゃあ驚く。
 実南の言うとおりだった。笑っても、それは愛想笑いか苦笑いのどっちかで、こんな風に心から笑うことなんて久しくなかった。ETUを出て行くことを決めてようやく、また笑えるようになってきたんだ。そのことを、こいつに気付かれるなんて思わなかった。
 もう1回抱き締める。どんくらい戻って来ないかはわかんないけど、実南の存在を忘れないように、さっきより強く。


「くるしいー」
「我慢しろよ」


 明日から会えなくなるんだから、と。また言いそうになった。





(それでも言わないのは、)(――言えないのは。)





( 2010/10/05 )