本当に付き合っていないんですか? 「」コンビニで買ったばかりの棒アイスを袋から出していると、突然肩を叩かれた。振り向けばそこに、嵐とバンビちゃんが立っている。 「あれ。部活帰り?おつかれ」 「おう」 「くん、アイス溶けてるよ?」 「えっ」 バンビちゃんに指摘されて見れば、溶け始めたアイスが棒を伝ってぽたぽたと地面に落ちていた。その棒を持っていた俺の指もアイスで汚れている。 「悪い嵐、これ持ってて!食ってていーから!」 慌ててアイスを嵐に預けて、指先をぺろりと舐めた。ティッシュはポケットの中だから、取ろうとしたら制服まで汚れてしまう。よく見れば溶けたアイスは手首まで垂れていた。 「くん、これ使って」 勿体ないと思いながら手首を下から舐め上げていると、バンビちゃんがティッシュを差し出してくれた。 「いーの?サンキュ」 「嵐くんの目に毒だから」 「?毒?」 何が?と聞き返しても、バンビちゃんは困ったように笑うだけで答えてくれなかった。仕方なく聞くのを諦めて、ティッシュで手を拭いていると、ぽたぽたとコンクリートに落ちている滴が見えた。雨?と思って視線を上げると、 「ちょっ、嵐、溶けてる!!」 嵐に預けたアイスが、預けた時より更に小さくなっていた。 「え。うわ!」 俺が声をかけたことで、ぼーっとしていた嵐が我に返る。その拍子にアイスが地面に落ちたけど、ほとんどなくなってたからもうどうでもいい。 「わ、悪い、」 「ん?別にいーけど。元はと言えば俺が悪かったんだし」 「もー、嵐くんってば。ぼーっとしてるからだよ」 呆れたようにそう言って、バンビちゃんは嵐の手や腕を拭き始めた。その姿は甲斐甲斐しくて、正に嫁って感じ。嵐も照れるわけでもなくされるがままになっていて、今のふたりの距離が、ふたりにとっては当たり前なんだと知る。 「…−−−…」 「なっ…ちげぇよ、バカ!」 嵐の手を拭きながら何かを耳打ちしたバンビちゃんに、真っ赤になって何事かを否定する嵐。それに対するバンビちゃんは、何やら楽しそうだ。 …何だかな。俺もしかして、当てられてるんだろうか。こんなに仲良かったら、バンビちゃんに惚れてる奴らが嵐に嫉妬するのも無理ない気がする。だって、どう見たってふたりは付き合っているようにしか見えない。 そう思ったら、ちくりと胸が痛んだ。…のは、多分、気のせいだ。 「ほんと悪い、新しいの奢る」 「じゃあお言葉に甘えて」 本当にすまなさそうにしている嵐には、変に遠慮すると却って恐縮させてしまうかと思い頷いた。食べたいアイスの名前を言うと案の定嵐はほっとしたような表情を浮かべて、コンビニに入って行った。残ったのは、俺とバンビちゃんのふたり。…ちょっと気まずい。 「ねえくん」 だけどそう思っていたのは俺だけのようで、バンビちゃんは俺の隣に並ぶと声をかけてきた。 「嵐くんがくんを好きだってこと、忘れてない?」 「っ!」 しかも、とんでもない爆弾を持って。 げほごほと噎せる俺の背中を撫でながら、ごめんねとバンビちゃんが言う。 「でも、さっきのはやっぱり嵐くんには毒だったと思うんだよね」 「その毒って一体…」 「くん、色っぽかったから」 「いろっ…!?」 男の俺が色っぽいってなに!? 「例えばさっきのくんの行動を、カレンがやったらどう思う?」 さっきの俺の行動というのは、溶けたアイスを嵐に押し付けて、その間に指やら手首やらを舐めたことで良いんだろうか。カレンならきっと舐めたりしないだろうけど、もしそんなことをしようものなら俺が全力で止めるだろう。カレンみたいに綺麗な女の子がやったら、本人にはその意識はなくても、どうやったって男の目にはその行動は艶めかしく映ってしまうから。 そう考えてようやく、バンビちゃんが言わんとしていることが理解できた。…だから「毒」で「色っぽい」のか。 「…忘れてたわけじゃないけど、俺は男だから、そう見られるとは考えませんでした」 「男の人でもそう見える時はあるんだよ?…それに、好きな人だったら女も男も関係ないでしょ?」 「ごもっともです」 思わず敬語になった上、返す言葉さえなくなってしゅんとうなだれる俺。けれどそれも、嵐が戻ってきたことで長くは続かなかった。 「悪ィ、待たせた。ほら、」 「あ、ありがとうございます」 「?何で敬語なんだよ?」 差し出されたカップのアイスを受け取りながら、名残で敬語でお礼を言った俺に嵐は不思議そうな顔をして。バンビちゃんはくすくすと笑った。 「嵐くんには内緒だよ。ね、くん?」 「はい…」 「?」
( 2011/10/29 )
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