「あああああああの、九龍、さん」 「…、何でそんなにどもってんの?」 九龍の言葉に、自分でも全くだとは思う。だから、だからさ…そんなに可哀相な子を見るような目で見ないでくれないかな…!分かってんだからさ! そう文句を言いたいのを必死で抑えて、両手に抱えていたものを一気に九龍の机の上に落とした。ドサドサドサッ、という重い音が耳に痛い。どうせなら聞かない振りをしたかった。ついでに見ない振りも。それができたらこんなに苦しんでないんだけどな…。 九龍は当然と言うか何と言うか、思いっきり怪訝そうな表情を浮かべた。机の上にあったものを一つ取ってみて、ああ、と納得したように声を上げる。 「寝てた罰、ね」 意地の悪い声でそう言って、目を細める九龍はやばいくらいに男前。女の前でこんな顔したら、きっとどんな女でも一度でノックダウン間違いなしだろう。俺はそう思うんだけど、九龍はこういう顔は俺にしかしないから意味がない。彼女もいらないって、いつか言ってたような気がする。理由は聞いても教えてくれなかったけど。 まあそんなのは置いといて、この九龍の机に山のようになったものは、俺が授業中に寝てた罰として科されたものだったりする。ちなみに寝てたのは1教科じゃないから、与えられた罰は数学、日本史、英語、美術…その他色々だ。解けと言われたプリント、感想文を書けと言われた本、何でもいいから描くようにと言われた絵。これらが山になっている。 寝てたのは俺が悪い、だから罰だって何だって受け入れる、けど。……おっきな問題が、一つ。 「頼む九龍!英語教えて!」 「はぁ?」 パン!と顔の前で両手を合わせて唐突にそう言った俺に虚を突かれたのか、九龍は珍しく言葉にならない声を漏らした。 俺は頭良くないけど、バカでもない。つまり普通レベルという訳で、実技科目は得意な方だ。だから大抵の宿題は期限までに終わらせる自信がある。でも俺、英語だけは全くできないんだ…。 「…そういや、『貴方の名前は何故?』レベルなんだっけ?」 「それを言わないで下さい…」 今時小さい子でも英才教育の賜物でぺらっぺらに話せる英語だけど。俺はまず最初に覚える基本的なことすら、頭に出てこないし喋れない。九龍が言った『貴方の名前は何故?』レベルというのは、俺が授業中に相手の名前を問うWhat is your name?をWhy is your name?と言ったことで、先生が俺につけたレベルだ。ちなみに位置としては、基本レベルよりもダントツ下だったりする。あん時は本当に恥ずかしかった。 ていうかそれは1年の時の話だから九龍は知らない筈なのに、何で知ってるんだろう。大方1年の時も同じクラスだった甲太郎が言ったんだろうけどな。やっちーが言う訳ないし。 「九龍は英語ペラペラじゃん?だからホント、助けてくれるとありがたいんだけど」 「いいよ、別に」 「マジで!?」 「他ならぬの頼みだし。断れる訳ないだろ?」 うわ、神様仏様九龍様!九龍のことだから簡単にはオッケーくれないと思ってたけど、こいつも優しいとこあったんだなあ……って。 「…もしかして、何か裏あったりする?」 「いやいや、マミーズ関連でいーって」 「え、そんなんでいーの?」 「がもっと凄いの期待してるなら変えるけど」 「マミーズで手を打って下さい!」 相手が九龍だと本当何言うか分かったもんじゃないから、此処は無難にマミーズ関連を選ぶべきだろう。関連って言うのがいまいち分からないけど、どうせマミーズなんだから奢るとかそういうのだろうし。 そんな風に思っていたから、そのマミーズ関連という条件が奢るということではなく、俺がマミーズの制服(♀用)を着用するってことだったなんてこの時の俺は気付きもしなかった。 交換条件の罠
( 2006/03/13 )
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