見た目はとても綺麗にデコレーションされていて、普通のケーキとまったく変わりがない。けれど色だけがものすごく異常だ。どうやったらこんな風に鮮やかなオレンジ色を出せるのだろう。 アリスは怪訝半分関心半分で、ケーキ皿を目線まで上げてくるりと一周させた。オレンジの元であるにんじんの匂いはまったくしないし、不味そうにも見えない。しかもエリオットは幸せそうにばくばくとケーキを口に運んでいる。その隣でブラッドはキャロットケーキをまるでないもののように振舞ってひとりだけ優雅に紅茶を飲んでいたが、曰く、ブラッドはエリオットの影響でにんじん料理が嫌いなのだという。であればこの際、彼の反応は無視して良いだろう。 つんつんとフォークで突いた後、アリスは怖いもの見たさでえいっとオレンジ色のケーキを口に運んだ。目を瞑りながらもぐもぐと咀嚼する。けれどにんじん独特の味はいつまで経ってもしてこなくて、食べたことのない甘さが口の中に広がった。 「…美味しい…!」 一言で表すならそれ以外になかった。本当に美味しかったのだ。 「だろー!?のデザートはこの世界で一番美味いんだぜ!」 「大袈裟だよ、エリオット」 まるで自分のことのように嬉しそうにするエリオットを、彼の向かい側に座っていたが苦笑いで窘める。確かに全ての菓子職人が作ったデザートを食べたことがあるわけではないからこの世界で一番というのは大袈裟かもしれないが、けれどもアリスが今まで食べてきたデザートよりは遥かに美味しい。 「は女の敵ね。こんなに美味しいもの、我慢できるわけないもの」 現にフォークを口に運ぶ動きが止まらない。じろりと睨むと、は困ったように微笑んだ。 アリスがを女の敵だと思う理由には、自身の容姿も含まれる。美味しいデザートを作るはすらりとした長身の細型で、その上とても綺麗な容姿をしているのである。 じろじろとを見ているうちに隣に座っていることが嫌になってきて、アリスは少しだけイスを移動させて遠ざかる。当の本人であるはエリオットの口元をナプキンで拭っていて、アリスの動きに気付いていない。気付いてひとりで笑っているのは、アリスの向かい側にいるブラッドだけだった。 「…何笑ってるのよ」 「いや…お嬢さんも十分魅力的だと思ってね」 「それはどうも」 明らかにからかっている口調を流して、アリスは紅茶に口を付ける。口の中の甘さが紅茶の苦味で緩和されて、また違う味になる。ほう、と息が漏れ、卑屈なことを考えている自分が恥ずかしくなった。 「…本当、美味しい」 だからなのか、そんな風に素直な気持ちが零れる。アリスのその呟きが聞こえたらしく、振り向いたがふわりと嬉しそうに微笑んだ。 「今度、にんじんを使っていないものも作ってもらうといい。が作るデザートは絶品だからな」 「そうね、お願いしてもいい?」 「うん、もちろん」 キャロットケーキの憂鬱
( 2009/03/21 )
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