直接報告があったわけじゃないけれど、一緒に過ごしていればふたりの関係に変化があったことなんてすぐに分かる。前々からユリウスがアリスを、アリスがユリウスを見つめる視線にそういう感情が込められていたことは知っていたし、むしろふたりが付き合うようになった時にはようやくくっついたかとさえ思ったものだった。
 初めの頃は、あまりの初々しさに見ているこっちが照れた。けれど時間が経つにつれ、ふたりはまるで仲の良い夫婦のような雰囲気になってきた。それが俺は嬉しかったし、このままアリスが此処に留まってくれればいいと思っていた。
 ―――それなのに。


「…あんまり邪魔しないでやれよ」
「えー、何のこと?」


 何も知らない奴が見ればまったく邪気を感じさせないこの笑顔で、エースはふたりの邪魔をする。ふたりの関係に気付いているくせに気付いていないふりをして、俺も混ぜてよ、と。


「決まってんだろ。ユリウスとアリスのことだよ」
「邪魔してるつもりはないんだけどなぁ」


 見つめ合うふたりの間に割って入ったり、わざわざ危うい時間帯に寝室に入っていくその行動を、どの口が邪魔じゃないと言えるのだろう。俺はそのたびに、仕事を中断させてエースを連れ戻すことになる。
 ひとりだけ除け者にされているような疎外感から、邪魔をするようならまだ可愛い。実際、そういう感情もあるのだろう。けれどエースの場合は少し違う。ユリウスとアリスが付き合っていると知っていて、それに混ぜてほしいとねだっているのだから。


「第三者の俺から見ても、お前は邪魔だよ」


 少しきついくらいが丁度良いと思って、エースが不機嫌になるのを承知で言ったのに、エースはそうなるどころかきょとんと不思議そうな顔をした。


「何言ってるんだよ。は第三者なんかじゃないよ?」
「は?関係ないだろ、俺は」
「だってが俺のこと構ってくれないから、俺は寂しくってふたりのところに行くんだ」


 その言葉に、今度は俺がきょとんとした。それじゃ順番が逆だろう、と思う。ふたりのところに行って、ふたりが構ってくれないから、寂しくて俺のところに来るんじゃないのか。


「…アリスが好きなんだろ?」


 だからお前は、アリスとユリウスの仲を邪魔するんだろう?
 俺はずっと、そう思っていたのに。


「うん、好きだよ。ユリウスも好きだしね。でも、はもっともっと好きなんだよ」


 いつの間にか、エースのあの笑顔が視界いっぱいに広がっていた。思わず怯んで、カタン、と工具が手から滑り落ちる。
 自由になった手を掴まれる。逃がさないよ、と耳元で囁く声がする。いつもじゃれ合うようにアリスを抱き締めていた腕が、俺の背中に回る。


「ねぇ、


 アリスに囁きかけていた声より、もっとずっと甘い声。ぞくりと背中が粟立って、ぎゅっと目を瞑った俺を、くすりと笑う気配がした。


「もう、ユリウスとアリスの邪魔なんてしないよ。…だって、が構ってくれるもんな?」

そうして鳥は翼を失った

( 2009/03/24 )