「…美味しい?」 見た目は普通のチョコレートケーキだが、今エリオットが口にしたのはキャロット風味のチョコレートケーキである。チョコとにんじんを合わせるのは初めての試みだったので、そう問い掛けるの声は固い。味見をした限りではそんなに悪くもなかったのだが、贈る相手が喜んでくれなければ意味がないので、エリオットの感想を聞くまでは安心できなかった。 不安なとは対照的に、エリオットは食べる前から顔が緩みっぱなしだった。大好きなからバレンタインにケーキを貰ったのだから無理もない。それも手作り、当たり前のようににんじんも使用してくれている。もちろん、の作るスイーツが不味いはずもない。これで喜ぶなというのが無理な話であって、とにかく今のエリオットは最高に幸せを感じていた。 「すっげー美味い…」 フォークを口に含んだまま、口の中に広がる甘さを噛み締める。 その表情と言葉に、ようやくはぱあっと顔を輝かせた。 「良かった…。美味しくなかったらどうしようって不安だったんだ」 「こんな美味いチョコレートケーキ食ったの初めてだぜ。ありがとな!」 満面の笑みで礼を言うエリオットに、も今日初めての笑みを返す。そのままエリオットがホールのケーキをぱくつくのをにこにこと見ていたが、ふとあることを思い出した。手元には、まだ4つの包みがあるのだ。 「ごめん、エリオット。俺、他のみんなにも配ってこないと」 「え」 ケーキを口に運ぶ動きが止まった。ぽかんと立ち上がったを見上げるエリオットの顔が、むす、としかめられる。 「ブラッドはいいとして、他の奴らにもやんのか?」 「う、うん、アリスと双子にも作ったんだけど…」 「……」 ふい、と視線を逸らされて、は自分が何かエリオットの機嫌を損ねるようなことをしたのだと気付いた。 「エリオット?怒ってる?」 「……怒ってる!」 エリオットが憮然とした表情でそう言うと、は泣きそうな顔で俯いてしまった。少し大人げなかったかと反省する半面、きっとはエリオットが怒っている理由に気付いていないのだろうと思う。普段からお菓子を作ってみんなに配っているから、今日もそれの延長だと考えているに違いない。 椅子を引いて立ち上がると、の肩がびくりと揺れた。その肩を引き寄せて抱き締める。ふわりと香る甘い匂い。この匂いが自分のためだけではないと思うだけで嫉妬してしまうのだということを、は知っているのだろうか。 「…俺が何で怒ってるか分かるか?」 エリオットにそう問い掛けられて、戸惑いながらもは小さく首を横に振った。やっぱり美味しくなかったのだろうか、とは思うが、あんな風に食べてくれた姿が嘘とは思えない。 「今日はバレンタインだろ」 「…うん」 「俺は、お前が他の奴にチョコやんのが気に入らねぇんだよ」 つまりただの嫉妬だと続けて言われ、思わずは顔を上げていた。視界いっぱいに拗ねたような表情のエリオットが映った瞬間、やさしく唇を奪われる。 「…やんなっつってもやるんだろうから言わねぇけどさ」 こつんと額同士が合わさって、エリオットは盛大に溜め息を吐いた。笑みを漏らしたに、何だよ、と唇を尖らせる。 「…俺が好きなのは、エリオットだけだよ?」 「…でないと困る」 チョコレートケーキよりも甘く
( 2010/02/14 )
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