「なぁ、好きって言って?」 愛を囁いた後、エースはいつも俺の手を強く握り締めて、にこにこと貼り付けたように笑ってそう言ってくる。 「好きだよ」 それに対して俺は、従順にエースの要求に答える。 「名前も呼んで」 「エースが好き」 それこそ言われるがまま、にこりともせずに淡々と。愛の言葉だけを紡ぐ。 「本当に?」 「本当に」 「…はうそつきだね」 けれどエースは俺の言葉を信じない。自分で言わせているからなのか、無理やり俺を自分のものにしたという負い目があるからなのか。笑いながらそう言って、傷付いたような顔をする。 それでも俺に好きだと言わせることを止めようとしない、愚かな男。まるで信じようともしないくせに俺の口から紡がれる愛の言葉を執拗に求めて、自分で自分の傷口を抉る。それが俺の傷口も抉っているだなんて、きっとエースは考えたこともないんだろう。 …本当は分かっている。俺が自分の言葉で言おうとしないから、エースが俺を信じないんだということくらい。そんなのとっくに、気付いているけど。 言えないのは、―――言わないのは。 「俺はのこと愛してるよ。…だから、ねぇ、も」 ―――俺のこと、愛してよ。 懇願するかのように震えた声で呟かれて、泣きたくなる。俺のことを愛しているならどうか気付いてほしい。俺は最初から、嘘なんて一度も言っていない。 (俺だってお前のこと、愛しているよ) 俺を強く抱き締めるエースに、声には出さずに口の動きだけでそう告げる。それは、俺の気持ちがエースにあるとも知らずに俺の言葉も態度もすべてが嘘と決め付ける、そんなエースへの、ささやかな復讐。 circularity
( 2011/04/23 )
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