「付き合うのなら誰が良いんだ?」 アリスに向かってそう問い掛けたのはブラッドだった。彼からすればいつもの退屈凌ぎであり、戯れでしかない言葉である。だからアリスもいつものように呆れた顔をして「何を言っているのよ」と一蹴しても良かったのに、何故か今日はその問い掛けに興味を持ったようだった。 「そうねえ…誰が良いかしら」 「お姉さん!ぼくは?ぼくは?」 「ぼくだよね?お姉さん!」 「アリスがお前らみたいなガキを相手にするかよ」 立候補するかのように手を上げて、双子がアリスにじゃれ付く。アリスも慣れたもので、そんな双子をあしらう姿は堂に入っている。 けれどその微笑ましい光景は、エリオットがからかった瞬間に一変した。どちらかと言えば、からすればこちらの方が見慣れた光景であるのが頭痛の種だ。 「ひよこウサギは黙ってろよ!」 「お前みたいな馬鹿ウサギ、が好きになってくれただけでも奇跡なんだからな!」 「あぁ!?」 「そうだよ、何でこんなひよこウサギが良いのさ!」 「え?」 挙句の果てに何故かお鉢が自分に回ってきて、は眉根を寄せる。今は「アリスはこの中で誰が一番良いか」という話の場だったはずなのに、いつの間に「は何故エリオットが良いのか」という話になったのだろう。 「俺のことはいいから、アリスの答えを聞いたら?」 「じゃあ、私が答えたらも答えてくれるの?」 思いがけない言葉が返ってきて目を丸くするに、アリスはくすくすと笑った。どうやら今日はとても機嫌が良いらしい。 当然、話の矛先を向けられたとしては堪らない。眉根を下げて隣のエリオットを見ると、何かを期待しているらしく目が輝いていて、助けてくれる雰囲気ではなかった。それでは、と逆隣のブラッドを見ると、こちらも楽しげに唇の端を吊り上げている。他人の惚気を聞きたがる男ではないから、きっとが困り果てているこの状況を楽しんでいるのだろう。 ならば、が取る行動はひとつしかない。 「ごめん、答えられない」 「えー!?」 「なんだ、つまらないな」 不服そうな声を合わせた双子と、ブラッドの率直な言葉には苦笑いを浮かべる。アリスはその続きが分かっているのだろうか、何も言わずにを見つめたままだ。エリオットは見るからに落ち込んでいたが、それは次の言葉で浮上してくれることを期待する。 「俺はエリオットの全部が好きだから、何でと言われてもどれを答えればいいのか分からな、」 「っ」 最後の言葉まで言えなかったのは、の思惑通り気分が浮上したらしいエリオットにぎゅうぎゅうに抱き締められてしまったからだった。エリオットの腕の中から見た皆の顔は、やはりと言うか何と言うか呆れていたりにやにやしていたり思い切り顰められていたりで様々だったけれど、本当のことなのだからどうしようもない。 「…というわけで俺は答えたから、逆になっちゃったけどアリスの答えも教えてくれる?」 色々と突っ込まれる前に話を元に戻すと、アリスは一瞬きょとんとしてから、ああ、と言葉を漏らした。どうやらの答えのせいで、最初のやり取りをすっかり忘れてしまっていたらしい。 「」 だから、その唇からの名前が紡ぎ出された時は、最初誰も質問の答えだとは思わなかった。 「それは残念」 一番初めに反応したのはブラッドで、ちっとも残念そうではない表情と声色で肩を竦めてみせた。そんな彼を冷たい目で見つめるアリスを、次に覚醒した双子が両脇から揺さぶる。 「どうして!?」 「なんで!?」 「だって、この中じゃが一番常識人だもの」 「ぼくだって常識人だよ!」 「そうだよ、ぼくも常識人なのに」 「斧を持ち歩いている子どもを常識人とは言わないわ」 詰め寄る双子に疲れたように答えを返すアリスを気の毒に思っていると、は自分を抱き締める腕がわなわなと震えていることに気付いた。どうしたのと問い掛けるより早く。 「は渡さねぇからな!」 腕の中に閉じ込めるかのようにを強く抱き締めて、エリオットはアリスに向けてそう言い放った。 「…誰もエリオットからを奪おうだなんて思ってないわよ…」 さっきよりも疲れを滲ませた声色のアリスに、本当かと詰め寄るエリオット。そんな彼に愛想を尽かしたのか、口々に文句を言いながら双子は去って行き、ブラッドはまるで興味をなくしたかのように紅茶をすすっている。話の中心にいるはといえば、エリオットの腕の中で、火照った顔をどうやって冷まそうと頭を悩ませるのだった。 ティータイムの喧騒
( 2011/10/30 )
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