どんどんと部屋のドアを叩く音で目が覚めた。誰だろうと思うより先に「〜」と名前を呼ばれて、ドアの前にいるのがエリオットだと分かった。今日はブラッドとお酒を飲みに行ってたはずだけど、帰ってくるのがいつもより早い。不思議に思いながらドアを開けると、 「は俺のこと好きだよなっ?!」 ぼろぼろ涙を流したエリオットに、そんな風に詰め寄られた。 「え、エリオット!?」 「なあ、…っ」 まるで懇願するように俺の名前を呼びながら抱き着いてくるエリオットからは、きついアルコールの匂いがした。今の様子を見ると酔っ払っているのは明らかだ。知らなかったけど、エリオットは泣き上戸だったらしい。 それならばと、部屋のドアを慌てて閉めた。マフィアのNo.2のこんな姿、部下たちには見せられない。 それにしても、それ以外の状況がさっぱり分からない。なにがあったのか聞きたいけれど、答えを求めるのは難しいだろうと思った。エリオットの問い掛けに答えないで質問を重ねるのは、よくわからないけど自信喪失しているらしいエリオットを更に追い込みかねない。 「好きだよ」 だから、答えた。自分の気持ちを正直に。 「…」 「エリオットが大好き」 不安そうだったエリオットの目を見つめて笑いかけると、それにエリオットはみるみるうちに涙を溜めて、ぎゅうぎゅうと強く抱き締めてきた。…ちょっと痛い、けど、喜んでくれてるなら、我慢できる。 「俺も大好きだぜっ」 「うん、ありがとう」 嗚咽を漏らしながら好きだと繰り返すエリオットは、まるでこどもみたいで可愛かった。だけど大きな背中に腕を回して上下にさすっているうちに、だんだんと嗚咽が小さくなっていく。落ち着いたかな、と思って体を離すと、涙に濡れた目で見つめられてどきりとした。こどもとは違う、大人の男の人の目。 「何でだろうな。…には、好きだって何回言っても言い足りねぇ」 「な、なんでって…」 それを俺に聞かれても困る。俺には、俺にとって都合の良いようにしか考えられない。 真っ赤になっているだろう顔を俯かせると、エリオットが俺の首筋に顔を埋めた。柔らかな髪が頬に触れてくすぐったい。身をよじろうとすると、耳元に口を寄せられて。 「…好きだ。愛してる、」 掠れた声で囁かれた言葉に、俺の中の時計が、大きく音を鳴らした。 胸と一緒に言葉も詰まって、俺もだよと返したいのに声が出ない。それでも震える唇を開こうとすると、がくん、とエリオットの体から力が抜けた。 「えっ…」 慌ててエリオットの体を支えると、今度は耳元ですーすーと寝息が聞こえる。…どうやら酔いが回って、眠ってしまったらしかった。 「っ、もう…」 言うだけ言って寝てしまうなんてずるい。あれだけ酔っていたら、きっと明日は覚えていないんだろうし。ときめいて損したまでは言わないものの、ちょっとだけ寂しい。それでもまだ高鳴りが治まらないのは、本当に嬉しかったからなんだけれど。 エリオットの体を何とかベッドに寝かせると、どこか幸せそうに「」と呼ばれて引っ張り込まれた。起きたのかと思ったけど、寝息がまだ聞こえてくるところを見ると、今のは寝言だったみたいだ。 こどもっぽくなったと思ったら大人になって、まだこどもみたいになって。仕方ないなあと思うけど、やっぱりそんなエリオットをかわいいと思ってしまうんだからもうどうしようもない。 こういうのも甘やかしてるって言うんだろうか。前に双子たちに言われたことを思い出しながら、眠るエリオットにぴったりと寄り添って瞼を閉じた。 sweet and bitter
( 2012/06/03 )
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