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call for 「テニス部のマネージャーになってくれ(下さい)!」帰ろうと思って教室を出ると、まるで付き合ってくれ!とでも言うように跪いて手を差し伸べられた。そのバカども―――基、同級生2人と後輩1人をちらりと一瞥して、大きな溜息を吐く。 最近、毎日この調子だった。いつもは話すら聞かずに軽く流してきたけど、こんな風にいつまでも付き纏われたんじゃ俺も流石に疲れる。うんざりするのを隠すのも億劫で、顔を顰めながらぽりぽりと首の後ろを掻いた。 「あのさぁ…なんで俺なの?」 初めて口説かれた時から、ずっと浮かんでいた疑問。俺なんて本当にフツーの一般人で、働き者でもなければ気が利くわけでもないし、そんなに一途に声をかけられるほどの人材じゃないってことは、俺が一番知っている。 大体、氷帝のテニス部マネージャーとなれば女の子たちがきゃーきゃー嬉しがって食い付くだろうに。それを言うと、バカ3人のうち真ん中が顔を上げて、せやかて、と答えた。 「必要なんは一人なんや。大勢の女子から一人選ぶなんて、そんなん無理に決まっとるやろ」 「絶対後が面倒だもんなー」 そう思わねぇ?と忍足の右に跪く岳人に同意を求められ、成る程、と思わず頷いてしまった。 天は二物を与えずとはよく言うけれど、こいつらはテニスが上手いだけじゃなく無駄に容姿も整っている。そんなん贔屓だとは思っても、性格にすら大した問題が見当たらないこいつらを責めるつもりはない。ちなみに性格に問題が大有りな跡部は別だ。あんなに堂々と俺様っぷりを発揮されたら、いっそ清々しいとすら思ってしまうんだから不思議だと思う。 「でもサクは俺らと仲良いし、跡部にも文句言えるし、適任なんだよ」 それか。宍戸と仲が良いせいで、下手にテニス部の連中と仲良くなってしまったことを後悔する。つーか、だったら何で宍戸が直接言ってこねぇんだ。 「でも、早く帰りてぇし」 「え、佐倉先輩、何か用でもあるんですか?」 バカ3人の最後の一人・鳳が、その言葉に反応する。ていうか今更だけど、鳳はバカじゃねぇよな。絶対他のバカ2人に巻き込まれたんだろう。かわいそうに、と思いつつ、その無駄に素直な瞳にう、と言葉を呑んだ。 ぶっちゃけた話、大切な用事があるわけじゃない。ただ単に帰ってごろごろしたいだけだ。だけどそんなことを言ったら、絶対に強制入部させられるのは目に見えている。部員が200人以上いるテニス部のマネージャーになんてなったら、どれだけ大変なんだろう。考えるだけで眩暈がしそうだ。 「ああ、大丈夫やって。実南にやって欲しいんは俺らだけのマネージャーやし」 「人の思考を読むな。…つか、俺らだけってことはレギュラーだけってことか?」 言葉に出した訳ではないのに俺の疑問に対しての答えをくれた忍足を一睨みしてから、岳人にそう問い掛ける。岳人はにかっと笑って、大きく頷いた。 「サクには俺たちのサポートして欲しいんだよ。なー、いいだろ?」 「お願いします佐倉先輩!」 顔の前でパンッと手を合わせる岳人と鳳に、跪いていた筈がいつの間にか胡座になっている忍足。2人には悪気がない分、それを交わすのは難しい。忍足だけなら蹴散らすことも出来るんだけどなあ、と思わず遠くを見つめる。 ……仕方ない。ハァ、とでかい溜息を吐いてから、岳人と鳳の前にしゃがみ込んだ。 「分かった。マネージャーやるよ」 「マジっ!?」 「やった、ありがとうございます!」 「岳人と鳳の熱意に負けましたー」 にへらっと笑うと、二人も嬉しそうに笑い返してくれた。 「…おいこら実南、俺の熱意は何処行ったん」 「てめぇの熱意なんて感じなかったっつの。さー、そうと決まれば跡部んトコでも行ってくるかなー」 立ち上がって、んー、と両腕を頭より上にして体全体を伸ばす。最近体もなまってたし、マネージャーという仕事は丁度良いかもしれない。 「あっ、俺付き合う!」 「じゃあ俺は宍戸先輩に報告して来ます」 相変わらず鳳は宍戸に従順で、踵を返して走っていく後姿はまるで大きな犬のように見える。そう言えばあいつと知り合ったのも、宍戸がきっかけだったっけ。 大変そうだけど、面倒かもしれないけど、だけど楽しくなりそうだ。 岳人の隣を歩きながら跡部の下へと向かう途中、これからの日常をそんな風に思った。
( 2005/02/14 )
( 2009/03/05 ) |