「へー、強いなあんた」 ぱちぱちという拍手と共に、かけられたのはそんな言葉。 まだ仲間が残っていたのかと素早く振り向くと、そこには俺と同じ制服を纏った男が立っていた。 (つっても此処は学校の屋上なんだから、違う制服着てたら不法侵入なんだけどな) そいつは顔に笑みを浮かべながら、足元に倒れている俺が蹴りつけたばかりの男をまじまじと見ている。 …何だ、仲間じゃないの、か? 「助っ人、必要なかったみたいだ」 「…手伝うつもりだったのか?俺を?」 「だって5対1は流石に非道極まりないっしょ」 けらけらと笑って俺に近寄る、その姿には見覚えがあった。 その辺の下手な女よりも綺麗な顔をしているという噂で名高い、隣のクラスの。 高校に入学したばかりなのにも関わらず名前が知れてるというから不思議に思ってたけど、確かにこの容姿じゃ噂になるのも無理ないのかもしれない。 女っぽいとまではいかなくても中性的な容姿は、確かにその辺の女より綺麗だと思えた。 「お前、だろ?」 「俺のこと知ってんの?クロサキイチゴくん」 が俺の名前を知っているのは意外だった。 驚いたのが顔に出ていたのか、は再び笑い出す。 学校では仏頂面しか見たことがないから、俺はに無愛想なイメージを持っていたんだけど、今見た限りではそんなこともないらしい。 …ということは、周りの取り巻き連中がうざいのかもしんねェな…。 つーか、名前の発音が苺だったような気ィする。 アクセントの位置には結構こだわり持ってっから、一応訂正。 「言っとくけど、食うイチゴじゃねえからな」 「え、違うのか?」 「越後と同じなんだよ。だからイチゴ」 ちゃんとしたアクセントで言い直すと、はそのアクセントで何度か俺の名前を呟いた。 その耳に自然に溶け込むような声に、綺麗な声をしているなと、不意にそう思った。 音というのは、結構大事なものなんだと思う。 不快な音――例えば黒板を爪でひっかくような音は、一度聞いたら2度と聞きたくない。 声も同じだ。 の声は聞いていて安心出来るような柔らかさを持っていて、ずっと話していて欲しいと思える質を持っている。 不思議な奴だと、改めて思った。 「一護。…うん、覚えた。オッケオッケ。折角覚えたのに黒崎って呼ぶのもあれだし、名前呼びでいい?」 「好きにしろよ」 「うん、好きにする」 「で、は…」 「でいーよ。俺、名前好きなんだ」 言おうとしたことは違うんだけど、名前呼びを許されたならそれに逆らう理由もない。 分かったと頷いて、聞こうとしたことをもう一度言葉にした。 「いつもの取り巻きは?」 「…逃げてきた。だってうざいんだもん」 肩を竦めて眉を顰めるは、やっぱり四六時中くっついているクラスメイトを鬱陶しく思っていたらしい。 前に一度、女でもないのにトイレにまで付き纏われているのを見たことがある。 傍から見ただけの俺でもうざいと思ったんだから、本人が思わない訳ないよな。 「一護はさ、啓吾や小島たちと騒いでんの結構見かけるけど、いっつも楽しそうだよな」 「…まあ、楽しいことは楽しい、のか?」 「楽しいんだよ。俺もそっちのクラスが良かった」 拗ねたようなの態度に、思わず笑みが浮かぶ。 噛み殺そうと頑張ったがそれは無理で、ぶっと吹き出してしまった。 「うわ、ホントなのに」 「悪ィ悪ィ。つか、そんなにうちのクラスが良ければ暇な時来ればいんじゃねえの?」 「へ、俺、マジで行くよ?そんなこと言っていー訳?」 へらりと笑う、は何処か嬉しそうで。 気付けば、いいよと頷いていた。 それに目を見開いたは今度は顔全体で嬉しさを表すかのように、お世話になりますと笑った。 「そう言えば、啓吾のこと知ってんのか?」 「ん、同中だった。あいつマジいー奴だから好きー」 「ふーん」(…好き?)
こんな所で補足説明ってのは最悪だってわかってるんですが、一護はいつもの如くからまれていたってことで。 |