calando






 夏休みは一緒に遊べないかもしれないと、そう言った俺に対して、はそうかと寂しそうに笑っただけで、理由を問うことも文句を言うこともなかった。俺は身勝手ながらもそれを不満に思ったけれど、何も言わないでいくことの酷さを自分でも分かっていたつもりだったから、何も言わなかった。
 一緒に帰ることが当たり前になって、それから幾度となく一緒に歩いたこの帰り道。こうして歩いていると、明日からもまた、それが続くのだと錯覚してしまう。愚かだ、本当に。生きて帰れるのかも分からないというのに。
 足取りの重い俺の前を、が黙々と歩いていく。ぴんと伸びた背筋はとても綺麗で、俺が好きな所の一つだった。嫌いな所なんてないけど。…ああ、一個だけあったか。ちやほやされるを見るのはあまり好きじゃない。





 何となく名前を呼んでみると、返事はなかった。聞こえなかったのかもしれない。もう一度名前を呼ぶと、何?と小さく返って来た。それにほっとしたところまでは良かったものの、何があった訳でもない。でも何でもないと言うのも躊躇われて、少しだけ歩く速度を速めて、の隣に立った。
 何も反応しないを、ちょっとだけ屈んで覗き込む。普段は啓吾と一緒になってうるさいくらいのなのに、こんな風にだんまりなのはおかしい。そう思ってのことで、あまり深い意味はなかった、のに。…は、目尻に涙を溜めていた。


「え、お、おい!?」
「うるさいアホ、見んな」


 強い力で右頬を押し退けられて、思わずぐえ、と変な声が漏れてしまう。相変わらず顔に似合わず怪力な奴だ…ってそんなことより!


「お前、そんなに俺と遊べないの嫌なのか…?」


 半ば自意識過剰のような言葉だ。でも多分間違ってはいないんだろう。
 は俺の言葉を聞かなかった振りをして、やっぱり黙々と歩いて行ってしまう。だけどこのまま行かせるつもりはなかった。強引にの腕を掴んで、その場に留めさせる。何すんだよと睨み付けて来たを、無理やり腕の中に閉じ込めた。
 道の真ん中でだとか誰が通るのか分からないのに、とか。浮かぶものは沢山あったけれど、そんなものはどうでも良かった。気丈な恋人が泣いているのに、抱き締めずにいられる筈がない。


「一護…っ」
「できるだけ早く終わらせっから。だから泣くなよ…」


 きっとには、それだけじゃ何を意味しているか分からないだろう。ルキアのこととかそれら全てのことを何も話していないのだから、分かれという方が無理だ。だけど他に言い様もなかった。いっそ話せてしまえばどんなに楽か。でも、俺の一存では話せない。
 それでもは、俺の言葉に頷いてくれた。何も話さない俺を、信じてくれた。
 ルキアを助けに行かなきゃいけない、そう思う心に変わりはない。けれどこの腕の中の温もりを置いていくことが辛いのも事実だった。







(一番に君の下へ帰っていくから)






( 2005/01/15 )
( 今更!てくらいに時期外れ。もう帰ってきてるよ… )