『いつもんトコで待ってる』


 震えた携帯が伝えてくれたのは、そんなたった一行の、とても大きな幸せ。





carezzando






 携帯電話を握り締めて、家を飛び出す。母親に声をかけられたけれど、そんなのに構っていられなかった。
 メールの送信先である一護と会っていなかったのは一体どれくらいになるだろう。とても長かったような気もするし、案外短かったような気もする。けれどやっぱり長かったと思うのは、連絡一つ取れなかったからなのだろう。
 会いたかった。心の底から。だからそんなに近くもない場所に向かって、こんなに全速力で走っている。息は切れるし脇腹は痛い。だけど早く、早く会いたい。もうすぐ会えると思えば、そんな辛さなんて何でもない。これが恋の力なのだろうか。一人そんなことを思って、口許に笑みを浮かべる。
 いつもの所というのは、一護とが別れる川原のことだった。家の方向が同じだからいつも一緒に帰っているが、そこで別れるのだ。だから一護はの家を知らない。
 最初に目に飛び込んできたのは、オレンジだった。川に視線を向けている一護は、まだ自分に気付いていないだろう。スピードを落とさないまま、一護の背中に一直線に抱き着いた。衝撃が大きかったのか、呻く声が耳に届く。


「一護、」
「っ…、か?」


 頷く前に抱き着いていた腕を解かれて、一護がくるりと向きを変える。正面から向き合った一護は、夏休みに入る前に比べて大分大人びているように見えた。不覚にも目を奪われている隙に、唇すらも奪われて。は驚いたが、すぐにまた一護の背に腕を回した。
 こうやって実際に触れてみると、目の前にいるのだという実感と、どれだけ自分が彼に会いたかったということを嫌というほど思い知らされる。けれどそれは、どこか心地がよかった。


「おかえり、一護」
「おう」


 少し微笑んでそう言えば、一護は照れくさそうに笑った。大人びてかっこよくなったけれど、こういうところは変わってなくて安心する。会えなかった間、一護が何をしていたのか気にならないと言えば嘘になる。けれどこうして会えた今は、それだけで良いと思えた。






「そういや、今度家教えろよ」
「いーけど、何で?」
「会いに行こうと思っても行けねーだろ」
「…え、」
「…待ってるなんて性に合わねえんだよ、俺は。まだ家にも帰ってないんだぜ」
「……一番先に会いに来てくれたのか?」
「んなの当たり前…ってうお!」
「すげぇ嬉しい!だいすき一護、愛してる!」
「なっ…!」(真っ赤)





( 2006/04/02 )