confirmation






「なぁ一護、俺のこと、好きじゃなくなった?」


 俺の方を見ないで、静かな声で紡がれた言葉。俺にはその意味が分からず、すぐに返事を返せなかった。


「…どういう、意味だよ」
「どういうって、そのまんまだよ」


 逸らした視線はそのままで、が浮かべたのは苦笑い。けれどそんな表情すら無理して浮かべたものなんだって分かって、俺は何も言えなくなる。
 思えば、俺はに甘えていたのかもしれない。死神代行のこともルキアのこともには何ひとつ言わないで、それでもなら分かってくれるだろうと思っていた。実際、分かってくれていたのだと思う。俺が言いたくないことを、は何も聞かないでいてくれた。それがどんなに、ありがたかったか。そう言えば俺はそんなことすら、に伝えていなかった。



「………」
「こっち向けよ」


 ふるふると首を横に振る、の肩を掴んで無理やり視線を合わせた。漸く交わった視線の先では大きな瞳が揺れて、ぼろぼろっ、と涙が零れる。一瞬目の前が真っ白になった。
 呆然としている間には眉を顰めて、けれど慌てることもなく、ぐし、と乱暴に涙を拭った。


「…あーもー、せっかく我慢してたのに。台無し」


 拗ねたような声は、涙に濡れていた。俺はその声に我に返るのと同時に、を引き寄せ抱き締めた。
 男にしては細い体が、びくり、と強張る。ある意味拒否とも取れるその反応に、少し傷付く。けれどきっと、俺は今以上にを傷付けていたんだろう。だったらこんな痛みぐらい、何ともない。


「…ちゃんと、好きだから」
「……」
「だから、心配すんな。不安になんなよ」


 ぎゅ、と抱き締める腕の力を強くする。は何も言わなかったけれど、少しずつ、本当に少しずつ。の体から、力が抜けていくのが分かった。
 が心配するようなことをしているのは俺で、不安にさせているのも俺なのに、するなと言うのは勝手な話だと思った。けれど俺に気の利いた言葉が言える筈もなく、そんな言葉しか浮かばない。以降何も言えずに黙っていると、が身じろいで、俺の背中に腕を回してきた。ただそれだけの行動に、酷く安堵する。
 少しだけ離れて、指先で、手のひらで、の頬に触れる。涙の跡が痛々しくて、つぅ、とその跡を拭った。は一瞬不思議そうな顔をした後、俺をじっと見上げてきた。


「…もしかして一護、震えてる?」
「……悪ィかよ」
「悪くない、けど、何で…」
「何でって、それは、」


 きっとこれは、最もな疑問なんだろう。だけど正直、理由はあまり知られたくなかった。
 こんな風に触れるだけで、手が震えるほどに緊張する。男として情けないと自分でも思う。けどこんな触れ方、今までしたことがないんだから仕方がない。キスしたのも愛しいと思ったのも、が初めてなんだ。
 だから、そんな相手を泣かせてしまうほどに傷付けた自分自身がとても嫌だった。泣かせて、傷付けて、嫌われたんじゃないだろうか。きっと手が震えてる理由には、そんな心配も含まれているんだろう。
 言いよどむ俺には破顔し、俺の指先に口付けた。突然のことに驚いて、手を引っ込めるどころか動けなくなる。


「っ、…?」
「何か分かったから、もういい。…疑って、悪かった」


 信じてもらえたことは素直に嬉しい。けれど何も言わなくても分かられてしまう、それも何だか恥ずかしくて、言えばよかっただろうかと後悔する。でもそんなの、今更だ。
 ごろごろと猫のように甘えてくるの髪を梳きながら、ふと、事の発端を思い出す。は何で、あんな風に思ったんだろう。


「……だって一護、最近ずっとルキアって子と一緒にいるだろ?」


 だから、あの子を好きになったんじゃないかと思ったんだ。
 拗ねたように続けられた言葉に、くすぐったいような気持ちが込み上げた。








( 2006/12/18 )