「で、どうなんだ、あっちの方は」 ハイジの運転の下手さを散々愚痴られた後、問い掛けられた言葉にがくりときた。運転が下手な人はあっちも下手らしいという噂で盛り上がったという話を聞いてから、嫌な予感は切々としていたのだが、やはりこうなるらしい。 「…お前、ほんとに聞きたいの?」 男同士の事情など、ノーマルな人間から見たらどうでもいいどころか、ある種聞きたくないことだと思うのだが。ユキは眼鏡をくいっと持ち上げ、ああ、と何故か偉そうに頷いた。 「……うまいと思うよ」 「思う?」 「俺もハイジも男相手は初めてだったし、ハイジ以外知らないから、そうとしか言えない」 何でこんな思いきりプライベートなことを真顔のユキに語らなければならないんだろう。そう思いながらは俯いて、熱くなった頬をぱたぱたと手で扇ぐ。 「ふぅん。下手だったら面白かったのに」 「あのさ、それ絶対ハイジに言うなよ」 まだ真っ赤なままの顔を上げて、正面から切実に訴える。ユキはぽかんとして、「何で?」と聞いてきた。 「俺が犠牲になるから」 「…なるほどね」 が真剣な意味がユキにも伝わったらしい。ハイジとの付き合いの長さで言えばユキの方が僅かに長いから、彼もハイジの性格は熟知しているのだ。 顎に手を当てて何かを考えている(どうせ犠牲の内容でも考えてるに違いないが)ユキを見ながら、はつられるようにしてユキのことを考えた。もちろん、あっち方面についてである。 「…ユキはしつこそうだよな」 「は?」 「ここをこうすると気持ちいいはずだとかって。彼女がイイって言うまでやめなさそう」 「……」 図星だったのかユキは言葉を失って、ぱくぱくと口を動かした。 「げ、もしかして当たった?」 「うるせーよっ」 やっぱり図星だったらしい。ユキはムキになって、に手を伸ばしてきた。ユキが自分をくすぐろうとしているのだと気付いたは、笑いながらユキから逃げる。はわき腹が弱点なのだ。 「こら、うるさいぞ」 いつの間にか、部屋の入り口にハイジが立っていた。じゃれ合っているうちに、はユキに押し倒されたかのような体勢になっている。その格好のままぽかんとした顔で見上げてくるふたりを一瞥した後、ハイジはの腕を引き、自分の胸元に抱き寄せた。 「…どういう状況なのか、説明してくれないか」 にこりと微笑む、ハイジが怖い。ユキは思わずうっと口ごもる。 「じゃれてただけだよ。ユキの図星をついたら、ムキになっちゃってさ」 困るよな、と笑いかけるの一言で、ハイジの黒いオーラは正常に戻った。ユキがを凄いと思うのはこういう時だ。焦ることも偽ることもなく、事実を淡々と述べることで、相手の機嫌を損なわせない。 「図星?」 「言わないからな」 図星の内容を聞いてきそうだったので、ユキは予め釘をさすことを忘れないでおく。ハイジは少しだけ眉を顰めたが、無理に聞き出そうとはしなかった。 「それよりハイジ、ご飯出来た?」 「ああ、そう言えば…だから呼びに来たんだった」 「お腹空いたー。早く食べよ」 話題をころりと変えた後、はハイジの背中を押しながら部屋を出て、最後にユキに向けてへらっと笑った。きっとうまくごまかせたとでも思っているのだろう。それに手を上げて答えて、ユキもふたりの後に続いた。だからには敵わないんだ、と、うっすら口元に笑みを浮かべながら。 ドライビングスキル
( 2009/08/27 )
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