布団の上でごろごろしていたら、いつの間にかうとうとしてしまっていたらしい。目を覚ました時、時計は最後に見た時から30分ほど針を進めていた。 もぞもぞと起き上がりながら部屋を見渡すと、ハイジはまだ机に向かっている。30分前と若干姿勢は変わっているものの、俺を起こさなかったってことは、作業がまだ終わってないのかもしれない。 「ハイジ、まだ?」 机に向かう背中にぎゅーっとへばり付いて、ハイジの手元を覗き込む。10人分の練習メニューが書いた紙がそこかしこに散らばって、いつもの整然とした机は影も形も見当たらない。ハイジがどれだけ嬉しく思って、真剣に箱根に取り組もうとしているか、見るだけでよく分かる机になっていた。 「もう少し」 1時間くらい前から変わらない回答。この調子だと、俺が寝ていたことにも気付いてないんだろう。でも、文句を言う気にはなれなかった。構ってほしいけど、邪魔はできない。 「うん」 それでも温もりが名残惜しくて、つむじにちゅ、とキスを落としてから、さっきまで寝転んでいた布団に戻る。待つには今までみたいに寝るのが一番なんだろうけど、一度起きてしまったので、眠気はすっかり飛んでしまっていた。 時間つぶしに近くに置いてあった料理の雑誌を手に取って、ハイジはこれを見ながら作ってるのかと、その光景を想像してみる。メニューを決めて、商店街に買い物に行って、たまねぎと格闘するハイジ。何だか微笑ましくって、自然と頬が緩む。 ハイジのように、エプロンの似合う大学生もあまりいないよな、と思う。3年前は料理も下手だったのに、今では本を見れば何でも作れるようになったんだから、研究熱心な人は凄い。 「あ、これうまそう」 ぺらぺらとページを捲っていくと、茄子とミートソースのグラタンが目に入った。グラタン好きな俺としては、食べてみる価値がありそうだ。 「どれがうまそうだって?」 「ハイジ。終わったの?」 「ああ。悪かったな、構ってやれなくて」 作業を終えたハイジは俺の隣に横になって、よしよし、と頭を撫でてきた。それだけで嬉しくなって、1時間以上放っておかれたことなんてどうでもよくなるのだから、俺も末期だ。 雑誌を覗き込みながら、ハイジは「今度作ろうか」なんて言って材料を確認している。俺はそんなハイジの横顔を眺めつつ、嬉しくなって身を寄せた。 「?」 「買い物、俺も一緒に行くから誘って」 久しぶりにデートしようと誘うと、端整な顔をもったいないくらいにくしゃくしゃにしてハイジは微笑む。 「そんなんじゃデートって言わないだろ?」 「じゃあどっか連れてってくれんの?」 「そうだなあ……正月、箱根に連れてってやるって言ったら、呆れるか?」 予想していた答えがそのまま返ってきて、思わず笑ってしまった。本当に今は箱根のことしか頭にないみたいだ。責めるわけじゃなくて、それだけ人数が揃ったことが嬉しいんだろうなと思ったら、俺も嬉しくなってくる。だから、呆れるわけなんてない。 「行きたい。ハイジが目指す場所に、俺も一緒に」 「、」 「ハイジ?」 「…絶対に、連れて行く」 後頭部を引き寄せられたと思ったら、決意を宿した瞳が近付いてきてキスされた。俺の言葉に喜んでくれたんだと気付いたのは、一頻り愛を与えられた後だった。 impegno
( リクエストどうもありがとうございました! )
( 2010/10/16 ) |