「そういえば、最近彼女とどーなの?」


 鉄朗から「彼女が出来た」と聞いたのは、1か月くらい前だっただろうか。その時、鉄朗は前の彼女と別れたばっかりだったように思うけど、スパンが短いのはいつものことだから気にしないことにしている。かっこよくて面倒見の良い鉄朗はモテるのに、なぜか女の子と付き合っても長続きしない。


「別れた」
「え、いつ?」
「…一昨日?」


 そう言いながら、首を傾げる鉄朗。それくらい覚えておいてあげたら?と突っ込みたいけど、これもいつものことだ。鉄朗が執着するのはバレーと幼馴染みだという研磨くんのことくらいで、彼女に執着しているところなんて見たことがない。
 多分、付き合ったのも女の子に告白されたからで、鉄朗自体は好きでも何でもなかったんだろうと思う。そうじゃなければ、別れた日を覚えていないわけがないだろうし。


「今度は何で?」
「私のことなんて好きじゃないんでしょって言われた」
「いつもと同じじゃん…」


 そりゃあ自分を優先しない彼氏だったら、そう不安になってしまうのも分かるけれど。それにしたって、毎回同じなのはどうかと思う。鉄朗はもう少し、彼女に対する態度を改善した方が良いんじゃないかな…。


「んで、私より、ずっと好きな人いるんでしょ、ってよ」
「えええ……」


 それはひどい。付き合っている人に自分以上に好きな人がいたら、軽くトラウマになりそうだ。思わず身を引かせると、鉄朗はにやりと口の端を吊り上げた。
 でも、彼女より好きな人って誰のことなんだろう。鉄朗の今の笑みを見る限り、彼女…いや元カノか、元カノの推測は当たってるんだろうけど、鉄朗が誰か特定の女の子と仲良くしているところなんて見たことがない。それなら、よっぽど―――…あ。どうしよう、俺、気付いちゃったかもしれない。


「…もしかして鉄朗、研磨くんのこと好きなの?」


 一応声を潜めてこっそり聞いてはみたものの、研磨くんの名前を出すのに、男同士だとか、そんなことは少しも考えなかった。だって、鉄朗の一番って言ったら研磨くんしか思い当たらない。
 半ば正解だろうと思っていたのに、俺を見つめる鉄朗の目は呆れているようだった。


「…何でそうなんのかわかんねえ」
「えー、だってさ、今までの彼女たちより、よっぽど研磨くんとの方が付き合ってるように見えるよ?」
「元カノに言われたまま教えてやろうか?」
「ん?うん」


 さっき言ってたのはちょっと違うってこと?最初からそのまま教えてくれればいいのに、誤魔化すなんて鉄朗らしくない。
 そう思っていたら、いつの間にか鉄朗の顔が目の前にあった。


「わ、」
「あいつは私よりくんの方が好きなんでしょって言ったんだよ。研磨じゃなくてな」
…って、え、俺!?」


 正解、という言葉が聞こえたと思ったら、ちゅ、とキスされた。当然俺はびっくりして、後ろにひっくり返りそうになったところに腕を回されて支えられる。さっきより近くにある鉄朗の顔。その顔に今まで見たことのない色気を感じて、ぞくりと背筋が震えた。


「本人には伝わんねえのに、元カノたちには伝わるなんて皮肉だよなあ?」


 その言葉に、鉄朗にそう言ったのは一昨日まで付き合っていた子だけじゃないんだと分かった。……そして、彼女たちのその言葉を、 鉄朗が肯定したことも。
 俺自身は、今まで鉄朗のことをそういう対象として見たことはない。鉄朗が今まで付き合っていた子はみんな女の子だったし、もしかしたら研磨くんが本命なのかもしれないとは思っても、鉄朗が俺のことを好きだなんて感じたこともなかった。そもそも同性の友達が自分を好きかも、なんて、誰が思うだろう。
 …だけど鉄朗は、女の子でも研磨くんでもなく、俺を好きだという。そう自覚した瞬間、顔に熱が集まって、どくんと心臓が大きな音を立てた。


「…真っ赤ってことは、ちょっとは脈ありって考えていいんだな?」


 真っ赤になった俺の顔を見て、鉄朗が目を見開いた後、嬉しそうに笑う。それに違う、と言えない俺は、一体どうしてしまったんだろう。
 だってキスさえ、嫌じゃなかった。嫌じゃなかったんだ。

Amor del destino

( 2014/12/29 )