「悪いな」
「うん?」


 帰り道、鉄朗とふたりで肩を並べて歩いていると、突然謝られた。だけど俺には何も覚えがなくて、首を傾げる。何か謝られるようなことあったかな。何もなかったと思うけど。


「なんのこと?」
「いつも待ってもらってんだろ。退屈じゃねえ?」
「ああ、そういうことか」


 俺も部活はしているけど、毎日あるわけじゃないから、一緒に帰る約束をしている時は大抵俺が鉄朗を待つことになる。だからそういう時は体育館の2階から部活風景を眺めて待っているんだけど、どうやら鉄朗はそれのことを言っているらしい。


「全然退屈じゃないよ」
「本当か?遠慮しなくていいんだぜ」
「本当だってば。何で疑うかなあ。待ってるの迷惑だった?」
「そんなわけねえだろ!」


 少しむくれてみると、鉄朗は慌てて、それからもう一度さっきとは違う意味で謝ってきた。別に本気だったわけじゃないのに、その慌てようがおかしくて、思わず笑ってしまう。


「俺ね、鉄朗がバレーしてるとこ見るの好きなんだよ」
「え?」
「鉄朗は知らないかもしれないけど、すごくかっこよくてさ。見てて全然飽きない」


 部活をしている時の鉄朗は、教室にいる時の鉄朗とは少し違う。本当にバレーが好きなんだなって見ていて分かるくらい、楽しそうだし生き生きしてる。好きな人のそういう姿を存分に見られるんだから、待っている時間はむしろ楽しみなくらいで、退屈なわけがなかった。


「………」


 ぽかんと口を開けたまま俺を見つめる鉄朗に、にひ、と照れ隠しで笑ってみせる。そうしたら、何故か大きな手のひらで目隠しをされた。


「ちょ、なに?」
「見んな」


 ありったけの力を込めてちょっとだけ指をずらすと、鉄朗の横顔が見えた。耳まで赤く染まったその姿を見て、見るなって言われた理由がすぐに分かって、何だかくすぐったくなる。


「…鉄朗、」
「…なんだよ」
「顔赤いよ?」
「っ、見んなっつったろ!」


 指摘すると、当然覗き見たことがバレて怒られた。だけど全然怖くない。さっき俺が笑ったのと同じで、鉄朗のこれも照れ隠しだってわかってるから。


「いいから帰んぞ」


 俺が笑っていると鉄朗は色々と諦めたのか、目隠しをしていた手で俺の手を掴んで早足で歩き出した。
 周りが暗いとはいえ、外で手を繋ぐのは初めてだ。誰かに見られているかもしれないけど、鉄朗が早足で歩いているおかげで、俺が引っ張られているようにしか見えないだろう。
 それならふたりでゆっくり歩きたかったけど、そうしたら鉄朗は手を離してしまうかもしれない。そんなもったいないことはしたくないから、なるべくゆっくりになるよう、俺だけ歩く速度を緩めた。

way back

( 2015/01/01 )