After all, you like it. 「はモデルみたいさ」「…え、」 にっこりと笑う、ラビに戸惑う。俺は自分でも表情が乏しい方だと分かってはいるけれど、今回は無表情でいられそうにない。きっと困惑しているのが、そのまま表情に出ていただろう。それでもラビはにっこりと笑ったままだ。釈然としない。 「…どういう、意味」 「背ェ高くて、すらっとしてる。足も手も長いし、…ほら」 「っ…!」 指を絡め取られて、そのままぐいっと引っ張られる。ピンと伸ばした腕は、確かにラビと同じくらい長い。ラビは177センチ、俺は172センチで、一応身長差は5センチあるのに。 「な?」 な?と言われても。そうだな、なんて返したら、とんでもない自意識過剰男みたいじゃないだろうか。確かに腕は長いのかもしれないけれど、モデルみたいだと自分で認めることは憚られた。 俺は今度は無表情のままで、繋がれた手を離した。至近距離にいるラビが僅かに顔を顰めたのが分かったけど、敢えて無視する。繋いだままなんかで、平静を装える自信はない。落ち着くためにすう、と息を吸って、出来うる限り長く吐き出した。 「…俺から言わせてもらえば、神田の方が綺麗な顔しててモデルみたいだと思うけど」 それにあの黒くて真っ直ぐな長い髪も綺麗だ。俺はアレンよりちょっと短いくらいで、少し茶が混ざっていて完全な黒髪って訳でもないから、同じ日本人として羨ましい。でも洗うのにも仕事をするにも面倒くさそうだから、自分で伸ばす気はないけれど。 今のは咄嗟に出た一言でよくよく考えたことはなかったけれど、そう言えば神田は男にしては酷く綺麗な顔をしている。リナリーも可愛いし、きっと数年後は男たちが黙っちゃいないだろう。コムイ室長も黙っていなさそうだ。あの人だって、真剣なときはかっこいいのに。 ……そんな風に次々と仲間たちの顔を思い出していると、いつの間にかラビの顔が目の前にあった。 「…近い」 「そんなことないさ。…っつーかオレは、やっぱのが綺麗だと思うんだけどな」 そんなことあるし、そんなことないと思う。 ていうか…そんなにまじまじと見ないで欲しい。折角平静を装うためにラビの手を離したのに、こんなに至近距離にいるんじゃ意味がない。 不自然になってしまうけれど、ラビの視線から逃れるために少し強引に顔を背けた。 「」 ムッとしたような声が耳に届く。 ラビは人懐こい分、蔑ろにされることを酷く嫌がる。俺がラビとこうして普通に話すようになるまでしつこく寄って来たのだって、最初の挨拶に返事を返さなかったかららしい。…あの頃はこんな風に仲良くなるなんて思わなかったな。だって俺はラビのこと、うざいとしか思ってなかった。 そう思うと笑みが込み上げて、無意識にそれが表情にも出ていたようだった。 「…何で、笑うんさ?」 不思議そうな声色に、ちらりと視線を向ける。目が合うと、ラビは戸惑うような表情を浮かべた。ラビの前で思い出し笑いなんてしたことがないから、初めて見る俺に戸惑っているのかもしれない。 ラビ、と呼ぶと、ん?と返してくれる。少しだけ、口元には笑みを浮かべて。その笑顔を見て、思う。……ああ、うん。やっぱり、俺は――――。 手を伸ばして、ぺたりとラビの頬に触れた。 「…?」 「…神田もリナリーも、綺麗だなって思うけど。俺はラビの顔が一番好きだよ」 「え?」 いまいち理解できていないラビには何も言わず、ただ笑顔だけを返した。
( 2006/02/04 )
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