姿を見かけるたびに、大量のアクマに囲まれている奴がいる。オレらと同じ人間なのにも関わらず、そいつはアクマが人を襲うのをいつも黙って見ていた。アクマと共に行動する人間・ノア。けれどそいつはアクマや他のノアのように、人間を襲うこともしなかった。
 その変わったノアの名前がというのだと知ったのは、本当に偶然だった。人間として過ごしているを、たまたま任務の帰りに見かけたのだ。けれどその偶然にオレは、とても感謝している。


「この間オレ、誕生日だったんさ」


 の周りのアクマを全部やっつけた後、にっこりとに笑いかける。あの偶然がなければ、こんな風にに話しかけることはできなかった。それでも、は全てのアクマを倒してからじゃないと、こうして振り向いてくれることもないのが寂しいところだけれど。
 振り向いたは無表情で、何の感慨もなさげにふぅんと呟いた。多分その後には、だから何?と続くんだろう。だからオレは言われる前に、その言葉に対する返事を返す。


「これでオレもと同い年になった。知らなかったっしょ」


 オレは多少のことを調べているけど、の方はオレになんて興味を持ってなかったから、オレが1個年下だってことすら知らない筈だ。
 にかっと笑いながらそう言うと、の切れ長の瞳が大きく見開かれた。それはがオレの前で初めて浮かべた、「無」以外の表情だった。その瞳は言葉よりも雄弁に、驚愕と疑問を現している。
 が驚いた理由は、きっとふたつ。オレがの年齢を知っていたことと、同じ年だという事実に、だ。


「…さすがはブックマンの跡継ぎ、か」


 の口からぽつりと漏れた声が、さっきまでとは全然違う色を帯びていた。…これはもしかして、オレに興味を持ってくれたんだろうか。そうだったら、こんなにも嬉しいことはない。


「それで?俺に何をしてほしいのかな」
「何かくれんの?」
「やらないよ」


 期待させといてその態度。ちぇっ、と口を尖らせば、は目を細めるようにして笑った。


「…ああでも、これくらいならしてやってもいい」


 初めて見た笑顔に目を奪われていたオレが、その声を認識した時にはもうすでにの姿が目の前にあった。
 ―――――速い。もし今がオレを殺そうとしていたのなら、間違いなくオレは死んでいた。つぅ、と背筋を冷や汗が伝う。
 はそんなオレを知ってか知らずか、微笑んだまま軽くオレの頬に唇を押し付けた。そしてそのまま唇を耳元に寄せて、小さくこう囁く。


「誕生日おめでとう、ラビ。君に幸多からんことを」


 はっと我に返った瞬間には、もうその姿は闇に紛れて消えていた。
 最後に与えられた温もりと声が、オレの中に確固たる余韻を残す。暫く消えそうにないそれに、思い知らされたのはこの感情の名前だった。

















ラビ、ハッピーバースディ!
一か月遅れとかそういうところはスルーでおねがいしま、す…(がくり)
マイフレンド・くおんさんがサイトでラビ生誕祭をしてるので、そちらに献上させていただきます。
さてさて、これを書いてる中、わたしが一番悩んだのはどこでしょう!

正解はタイトルをホワッチューにするかホワットユーにするかでしたー。
(果てしなくどうでもいいな!)




( 2007/09/06 )