「敦とキスすんのって大変そうだよな」 向かい合って目を合わせようとすると、思い切り見上げることになって首が痛くなる。170以上ある俺でさえこうなのだから、女の子はもっと大変だろう。そう思っての言葉で、深い意味はなかった。 「…試してみる?」 なのに何故か俺に対してそう言ってきた敦は嬉しそうで、いつもどうでも良さそうに周りを見ている瞳がらんらんと輝いていた。何が何だかよく分からなくて辰也を見ると、呆れたようにため息を吐いている。俺と目が合うと、辰也はふるふると首を横に振った。余計に意味が分からない。 困惑する俺の肩を、がっしりと掴む大きな手。いつの間にか眼前に迫っていた敦の顔に、驚いてあげようとした声は、けれども音にはならなかった。 「〜〜〜〜!?」 唇を、柔らかな感触で塞がれたからだ。 え、なに、これ、もしかして俺、敦にキスされてんの!? 突拍子もない敦の行動に俺が内心で思いきりパニくっている間に、敦は舌まで差し込んできて、舌を絡めたり俺の口の中のあらゆるところを舐めてきた。 俺だって、今までキスしたことがないわけじゃない。だけど、する側とされる側でこうも違うものなんだろうか。それとも、敦が上手いだけなのか。初めて感じる舌の熱さに頭が朦朧としながらも、ぼんやりとそんなことを考えていると、体からも力が抜けてきた。 それに気付いた敦はようやく俺から離れて、ぺろりと舌なめずりをしながら妖しく笑った。 「ごちそうさま」 その言葉と表情に、今更ながらかあっと体全体に熱がこもる。同じ男にキスされたことはもちろん、好き勝手されたのも悔しくて、力の入らない手で敦に腹パンをお見舞いした。 「…いたい」 「嘘つけ!」 「顔真っ赤だよ。敦のキスは、そんなに気持ち良かった?」 「っ〜〜〜〜…!!」 思いも寄らないところから鋭い攻撃が飛んできて、そっちを睨み付けると、辰也は心底愉快そうに笑っていた。咄嗟に否定の言葉が出なかったのは、図星だったからだ。それが失態だったと気付いたのは、視線を敦に戻してから。敦の瞳に、さっき以上に熱がこもっていると気付いてからのことだった。 kissing bandit
( 2013/02/17 )
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