フロムクライ



「なぁ。仁王は?」


 まるで、俺が仁王のことで知らないことなんてないような聞き方。それに苦笑して、「購買」とだけ答えた。それで終わりかと思っていたのに、ブン太は興味深そうに俺を見て、前の席のイスを引いてどかっと座る。


「ブン太?」
「お前ら、ホント仲良くなったよな」


 パチン、と風船ガムが割れる音がする。頭の中で、その言葉を反芻してみた。


「本当だよな」


 仲良くなるまでの経過を一から思い出してみたら、思わず他人事のような答え方になってしまった。けれど本当に、全く以てその通りだと思う。
 椎名と別れてから1か月。俺と仁王は随分昔から仲が良かったかのように、一緒にいるようになった。だからこそ、ブン太はあのような聞き方をしてきたのだと思う。1か月前にあんな風に問われた場合、どうして俺に聞くのかと怪訝に思いながらも知らないと答えていただろうと考えると、少しだけ不思議な気分になった。今ならあんな風に即答できるのに。


「仁王が誰か一人にべったりなのって、俺、初めて見る。部活の奴らも不思議がってるぜ?、よっぽど気に入られたんだな」
「どうだろう。仁王は俺のこと、心配してくれてんだと思うけど」
「仁王が心配〜?」


 どこから出しているのか分からないような声を出して、ブン太はあからさまに驚いてみせた。そんなに意外だろうか。確かに俺も最初は驚いたものだったけれど、1か月傍にいて、意外でも何でもないと思うようになったんだけれど。


「騙されてんじゃねーの、


 普段、ブン太は仁王にどんな扱いをされてるんだろう。思わずそんな風に思ってしまうような、切実な声だった。
 けれど思い返してみても、あの優しさが偽物だとは思えない。だから俺は、ふるふると首を横に振った。


「まさか。俺を騙してどうするんだよ」
「まぁを騙すなんてこと、さすがの仁王だってしねーか」
「当たり前じゃ」


 けらけらと笑ったブン太の表情が、ひくりと強張った。この間見たのと同じような光景が目の前に広がる。…つまりはブン太の背後に立った仁王が、ブン太の襟元を掴んでいるという光景が。


「おまっ、気配消して近付くんじゃねーよ!」
に変なこと吹き込むんじゃなか。嫌われたらどうするんじゃ」
「それはないけど」


 その光景があまりにおかしくて笑いながら言うと、仁王とブン太は驚いたように俺を見た。けれど仁王のそれは一瞬で、すぐに視線を逸らされてしまった。…俺の見間違いだったかな?




*となりにはきみ





( 2008/09/04 )