一緒に飛んでみるか?と言った後の、驚きようといったらない。はあんぐりと口を開けたまま、目を真ん丸にしてオレを見上げた。 「え。…え、本当に?」 「おう。空、飛んでみたいんだろ?」 ずばりそう言えば、はにかむ笑顔が返ってくる。 「そんなに分かりやすかった?俺」 「お前、よく空やオレらの翼見てたからな。そうなのかと思ったんだよ」 と会ったばかりの頃こそ、日向の一族を疎んでの視線かと思ったものの、一緒に過ごしていれば、がそういう奴じゃないことくらい分かる。それに視線の質も否定的なものじゃなく、むしろ肯定的なものだったしな。 「でも、飛ぶってどうやって?」 「そりゃもちろん、オレがを抱えて」 「えっ」 普段は穏やかで大人しいが、真っ赤になって目に見えるほどに慌てている。重いから、だの、それはちょっと、だの言うその様子がおかしくて、思わず吹き出してしまった。姫さんはまったく動じなかったのに、まるで正反対だ。 距離を詰めて、問答無用でひょいとを抱き上げる。ああ、やっぱり想像通りだ。全然重くもなんともない。 「っ!ちょ、サザキ!?」 「黙ってな。飛ぶぜ」 一度、二度。翼を羽ばたかせて、空高く飛び上がる。地面から離れてしまえばも駄々をこねていられなくなったようで、ぎゅ、とオレの服を掴んだ。 「どうだ、気持ちいいだろ?」 「……」 返事がないことを不思議に思って、の顔を盗み見る。最初は強張っていた頬が、見る見るうちに綻んでいくのを目の当たりにして、オレは慌てて視線を逸らした。 これ以上はやばいと、本能が告げる。これ以上を見ていたら、オレはきっと抜け出せなくなってしまう。それが何からかも分からないのに、漠然とただそう思った。 「…すごい、きれいだ…」 けれど、そう呟いたの声が感動に震えていて。何度も何度も空から見下ろした見慣れた景色が、が綺麗だと言うだけで、これ以上ない極上の景色に思えた。そう思ってしまったり、思わず見上げてしまった先にあった、夕日に染められた姿に目を奪われている時点できっと、オレはもう抜け出せないところまで来ているのかもしれない。 そう考えると、苦笑いが込み上げる。31にもなって何たる様だ。オレは奪う側である海賊のはずなのに、年下の、それも男に、目ばかりか心も奪われるなんて。 「ありがとう、サザキ」 けれど相手が、こんななら仕方ない。つられるように微笑んでから、抗うことを諦めた。 君と見る世界はうつくしいから
( 2008/07/05 )
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