「…彼女?」 「そ、俺の彼女のちゃん。キレーだろ?」 そう高尾に紹介されたのは、確かに世間一般では綺麗と持て囃されそうな人物だった。困ったように高尾を見ていたその人物は、緑間の視線に気付くと控えめに微笑んで、ぺこ、と頭を下げてくる。 綺麗で礼儀がしっかりしているところは好感が持てる。けれど、そうだな、と手放しでは頷けない。その理由は別に「高尾の」彼女だからというわけではなく、その「彼女」にあった。 「…男を彼女とは言わないのだよ」 ちゃんと呼ばれた相手は中性的な容姿をしているが、着ている制服は見間違うはずもない、緑間と同じものだったのだ。 「ツッコむとこそこかよ!」 思いきり吹き出し、腹を抱えて笑う高尾に溜め息を吐いて、彼女改め彼は緑間に向き直った。 「です。いつも和成がすみません」 「君が謝る必要はないのだよ」 「そーだよ。俺、別に真ちゃんに謝らなきゃいけないようなことなんてしてないぜ?」 普段散々緑間のことをおちょくっているくせに、一体どの口が言うのだと睨み付けるが、高尾にはどこ吹く風。むしろ目が合うと、なあ?なんて同意を求めてくる。 「…本当に高尾と付き合っているのか?」 しっかりしているように見えるが、こんな風に何かと緩い高尾を選ぶとは思えない。けれどは目を見開いた後、はにかみながら頷いた。どうやら高尾の妄想ではないらしい。 「失礼だなー。本当に決まってんじゃん」 「そのようだな。…俺には高尾のどこが良いのか、まったくもってわからないが」 「俺も、真ちゃんを好きだっていう人の気持ちがわかんねぇ」 笑いながら言われて、思わずむっとする。だが先に言ったのは緑間の方なので何も言えないでいると、視界の片隅でが笑うのが分かった。 「仲良いんだね」 「別に仲良くなんてないのだよ」 「照れんなってー」 見当違いのことを言いながら、高尾は緑間の背中をばしばしと叩く。それに嫉妬するような素振りをまったく見せずににこにこ笑うからは、本当に高尾のことが好きなのだと感じられて、何となく面映い気分になった。 「…それで?急に何なのだよ。最近付き合い始めたわけでもないのだろう」 「いやさ、俺、真ちゃんと一緒に行動すること多いじゃん?と鉢合わせすることもあるだろうから、紹介だけしとこうかなと思って」 緑間と高尾の生活の大半は部活に拘束されているため、当然一緒に過ごすのも部活仲間が多くなる。だから互いの交友関係も詳しくなったりするのだが、高尾に付き合っている相手がいるとはまるで気付かなかった。 緑間が鈍いというわけではないのだろう。高尾のことだから、きっと巧妙にの存在を隠していたのだ。 「付き合ってるってバレると周りがうるさいから隠してたけど、やっぱなるべく一緒にいたいからさ」 そう言ってを見る高尾の目は、今まで見たどの目よりも優しかった。先程感じたばかりの面映さをもう一度感じて、思わず緑間は微笑み合うふたりから視線を逸らす。 「俺が男同士だからと言って気持ち悪がったり、周りに言い触らすとは思わなかったのか?」 「思わねーよ、そんなこと」 思いがけず即答で返ってきた否定に目を見開く。そんな緑間に、高尾はおかしそうに笑った。 「だって真ちゃんは、良い意味でも悪い意味でも他人に興味ないっしょ?」 そんなことはないと言いたいのに、他の誰より緑間自身が高尾の言うとおりであると分かっている。けれど素直に頷くのも癪だったので黙り込む緑間に、がこっそりと教えてくれた。 「だから和成は、真ちゃんなら大丈夫だよって言ってました」 まるで高尾は緑間のことを信じているのだと、そう言っているような言葉に、なんともくすぐったい気分になる。何となくと目を合わせられなくて高尾を見ると、小さな声は高尾の耳には届かなかったようで、不思議そうに首を傾げていた。 いっそ届いていつものようにからかわれた方が良かったと思ったが、すぐにそれは思い直した。それでは腹が立つだけだ。一方はただ単に事実を言っただけなのだから、普通に言葉を返せばいいだけの話である。けれど今の話題を続けることも嫌で、悩んだ挙句に緑間の口をついてでたのは、 「…その、真ちゃんというのはやめてほしいのだよ」 散々高尾に言ってきた、どう考えても今この場にはふさわしくない言葉だった。 言った緑間自身もそう思うのだ。言われたも当然きょとんとしている。しかしやはり彼は常識人だったようで、笑いながらも確かに頷いてくれた。だがこの場にはだけでなく高尾もいたので、結局以上に笑う彼にからかわれるはめになったのだった。 relation
( 2012/10/28 )
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