〜♪ 「…うるさい……」 けたたましく着メロがなって、はもぞもぞと布団の中から手を出し、そのまま手探りで携帯を探し当てる。 慣れた仕草で通話ボタンを押すと、こっちが話し出す前に向こうが強い口調での名前を呼んだ。 「だれー…?」 『…手塚だ。、まだ寝てたのか?もうすぐ始業ベルが鳴るぞ』 布団の中でごろごろしながら、その言葉を頭の中で反芻してみる。 始業ベル。 ディスプレイの右上に表示された、8:34という時間。 理解した瞬間、実南は布団を蹴り上げて飛び起きた。 ベッドから抜け出て壁にかけていた制服をハンガーから外しながら、電話の向こうにいる相手にお門違いだと分かっていても怒鳴りつけた。 「何でもうちょっと早く起こしてくれないんだよー!」 『電話に出なかったのはお前だろう』 「そうだけど、って悪ィ国光、着替えるから切る!」 携帯を握る右手を使えないのは不便で、悪いとは思いつつもそう言った。 けれども電話してきた手塚は気にした様子もなく、寧ろああ、と快諾してくれた。 『気を付けて来いよ』 「ラジャ。…あっ、国光!」 『何だ?』 「ありがと助かった!じゃ、後で!」 返事が返ってくる前に電源ボタンを押して、回線を切った。 急いでパジャマ代わりのジャージを脱いで、ベッドの上に投げ捨てる。 パリッとしたYシャツに腕を通してからボタンに手を掛けると、慌てたせいで一つかけ違えてしまった。 もたもたとした手付きで直し、学ランを羽織ってバッグを肩に担いだ。 「げっ、40分!」 携帯に表示された時間に焦り、階段を駆け降りる時に危なく踏み外す所だった。 朝早くに仕事に行った母親が用意してくれた弁当を掴んで、そのまま家を出る。 の家は学校に近い場所にある為いつもは徒歩で行くのだが、今日は自転車で行くことにした。 念の為にと自転車を学校側に登録していたことに感謝する。 当たり前と言うべきか意外にもと言うべきか、通学路をの他に同じ制服を纏った者は歩いていなかった。 始業ベルが鳴るのは50分だが、その前にHRがあるから既に担任は来ているだろう。 校門に立って遅刻者チェックをしていた竜崎に一喝され、謝りながらその前を通り過ぎ、自転車を専用置き場に投げ捨てるように置いて来た。 昇降口では上靴をちゃんと履く時間すら惜しくて、軽く爪先で引っ掛けて教室に走る。 ガラッと勢い良く開けたドアの向こうには担任が呆れた表情で立っており、クラスメイトたちは一瞬シンとなった後、一気に笑い出した。 「遅刻ー!」 「くん、髪の毛ぼさぼさだよ?」 「え?あ、そーいえば何もしてない…」 手ぐしで髪を梳きながら、担任にすみませんと苦笑いで頭を下げる。 元々癖っ毛のはすぐに寝癖も直り、いつもの髪型に戻る。 その様子を見ていた担任は溜め息をついてから、と同じように笑った。 「手品のようだな。まあいい、座りなさい」 「はい」 もう一度軽く会釈して、廊下側の前から3番目の自分の席に座った。 「国光、さっきはありがとな」 前の席の主にそう声をかけると、手塚は振り向いて頷いた。 「転んだりしなかったか?」 「階段から落ちそうになったけど、大丈夫。俺、そんなにおっちょこちょいじゃないよ」 「普通は階段から落ちそうになったりもしないがな。…忘れ物はないのか?」 「ないと思うけど…」 それでも気になって、バッグの中を漁ってみる。 前に貼られた時間割りとバッグの中に入った教科書等を見て、はさーっと青ざめた。 「昨日のままだった…!」 「お前は……本当、期待を裏切らないな」 「〜…」 「センセーごめーん!」 おっちょこちょい主人公シリーズ第一弾。 |