「お、あ、っわ!」 よろけたの腕を掴んで転ぶのを防いでやりながら、何もない所で躓けるのは一種の才能なのだろうかと手塚は思った。 そうでもなければ、こんな風にしょっちゅう転びそうになることなんてないと思うのだ。 ちなみに今は教室移動中であり、勿論廊下には躓きそうな物などない。 「3回目だぞ、。せめて1日1回くらいになるよう、注意して歩いたらどうだ」 「俺もそうしたいんだけどね。っと、サンキュ国光」 支えてくれた手塚に礼を言って、はふわりと笑う。 外見では落ち着いているように見え、こんな風に穏やかに笑うが、本当は鈍臭くておっちょこちょいだなんて、一体誰が信じるだろう。 同じクラスにでもならない限り、の本性は分からないに違いない。 現にと同じクラスになったことのない大石は、のことを落ち着いた人物だと思っている。 が今日2回目に躓いた時、手塚は傍にいなかったのだが、そのせいではそのまま床に顔面を打ち付け、鼻の頭に傷を作ってしまっている。 鼻に貼られた絆創膏を見たら、大石はどう思うのだろうか。 きっと、何もない所で躓いて転んで作った傷だとは絶対に思わない筈だ。 それは損と得どちらなのだろうと大抵関係のないことを考えながら、手塚はの言葉に小さく頷いた。 「いっつもお前が支えてくれるから、凄い助かる」 その言葉に眉を顰めて、手塚は先に移動先の教室へ向かうべく歩き出した。 小走りで隣に並んだは、短時間で何を考えたのか表情を曇らせている。 「?どうした」 「国光は大変だな。……俺と部活と、学校全体の面倒見て、さ」 表情と同じように、その声も曇っていた。 手塚は驚いて立ち止まり、の腕を掴む。 そのまま引っ張って向き合うと、は目を見開いて手塚と視線を交わらせた。 そして何処か怒っているような顔色に、はっと息を呑んだ。 「国光?」 「何故急にそんなことを言い出すんだ」 「…だ、だって俺、いつもお前に迷惑ばっかかけてるから…」 「迷惑だと思うなら、の傍にいない」 迷惑だなんて、思ったことすらなかった。 テニス部の部長をやっているのも生徒会長をやっているのも、若干押し付けられた感もするけれど、手塚が好きでやっていることだ。 勿論、の友人でいることも。 寧ろに自分が迷惑していると思われていることの方が心外で、手塚は無意識にの腕を掴んだ手に力を込めていた。 「…っ…国光、いた、い」 「あ、ああ、すまない」 手を離して、思わず一歩後退る。 は手塚に掴まれていた腕を逆の手で擦り、ふっと笑った。 「お前、この絆創膏、気にしてたろ?」 言いながら、ちょいちょいと指先で鼻の頭を指差した。 その言葉に手塚は気付かれていたのかと思い、今までのの急な落ち込みようにも納得する。 が怪我をしたのは、手塚が傍にいなかったからだ。 傍にいれば怪我させることもなかったのにと、気に病んでいたのは確かだった。 「別に国光が悪い訳じゃないのに、…そーやって自分責めるから、悪いなって思ったんだよ」 「、それは、」 「でも!」 手塚の言葉を遮るように、は声を大きくした。 「俺、国光と友達止める気、ないよ。申し訳ないって思うけど、俺の面倒なんてお前ぐらいしか見てくれないし」 そう言ってが浮かべたのは、困ったような、それでいて清々しさを思わせるような笑みだった。 自分の中で、気持ちに整理がついたのだ。 手塚と友達でいたいけれど、自分のことで気を病ませたくなかった。 それでも手塚があんな風に言ってくれるなら、それに甘えさせて貰うことにした。 「だからこれからも、世話になる」 言ってから逃げるようには手塚に背中を向けて、廊下を走り出した。 一瞬呆気に取られた後、手塚は何事もなかったようにに「廊下は走るな」と注意する。 そんな手塚には振り返って、へらっと笑った。 「だって走んないと授業おくれ――――って、ぅわ!」 本日4回目になる何もない所での躓きを、素早く腕を掴むことで支えてやって。 「授業に間に合っても、怪我して保健室に行くようなことになったら意味がないだろう。だから走るなと言ったんだ」 「うう…面目ないです…」 そう言う手塚の口元は、僅かに緩んでいた。 おっちょこちょいシリーズはFOOLISH!シリーズと名前を変えました( だから何だ ) |