「俺、お前見てると感心するわ。よくもまぁ、ずっと猫被ってられるよな」 さっきまでは、俺と梓馬の他にも人がいた屋上。そいつらがいなくなって二人きりになるなり態度をがらりと豹変させた梓馬に、俺は呆れながら大きく息を吐いた。それにすら面白そうに口の端を吊り上げた目の前の男の、どこに憧れる要素があるだろう。本性を知っている俺としては常々そう思っている分、見事な変貌振りには舌を巻かされる。…そりゃ、外見とか色んなものに取り組む姿勢とかは、俺だって認めてるんだけどさ。 「慣れるとそれが当たり前になるんだよ」 「そんなもん?」 「ああ、には無理だろうな。お前は不器用だから」 …ほらね、この言い方。一緒にいる時間が長い分、自然と本性を現してくるのは仕方ないとしても、何だか納得がいかない気もする。 猫を被っている梓馬なら、同じことを言い表すにしても、きっと物腰柔らかで相手に不快感を与えないような言い方になるんだろうな。「君はそのままで十分魅力的だから、自分を偽る必要はないよ」とか何とか。…俺相手には有り得ないとしても、想像すると気持ち悪い。やっぱ梓馬は外見に似合わない口調じゃないと。 「何か俺に失礼なことを考えてないか?」 「や、別に?」 梓馬の真似をして、にっこりと微笑みかけてみる。案の定、梓馬は引いていた。 「何だよ、俺の笑顔が気に入らないってのかよ」 「そういう気持ちの篭ってない笑顔は気に入らないな」 「つまり気持ちの篭ってる笑顔は気に入ってるってことか」 梓馬も可愛いとこあんじゃん。ニヤリと笑うと梓馬は自分の失言に気付いたらしく、思いっきり眉を顰めて舌を打った。 「照れるなよー」 「照れてない」 「俺だって梓馬の心からの笑顔が好きなんだから、同じだろ?」 今日の梓馬はころころ表情が変わる。誰もいないっていうのは、こういう時はすごくありがたい。何だかんだ言っても、猫を被った梓馬より本当の梓馬の方が好きだから。 驚いて目を見張った梓馬に、今度は気持ちを込めた笑顔を向けた。梓馬はまた呆れたように、けれどどこか嬉しそうに、俺と同じ、心の篭った笑顔を浮かべてくれた。…うん、やっぱりニセモノの笑顔より、こっちの方が断然良い。 「…も言うようになったじゃないか」 「そりゃあ、誰かさんといつも一緒にいればな」
( 2007/07/19 )
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